先述した通り、最大の特徴は、カオス状態のライフログデータを整理し、企業や研究機関が所有するさまざまなデータとひも付けて、あらゆる因果関係について、検証することが可能ということだ。
例えば、運動時間と睡眠の質、体脂肪率と血圧、気温と体調の変化など、検証可能な事例は枚挙にいとまがない。
これら因果関係の状態は、ビジュアルにモデル化され、パソコン画面上で確認することができる。しかも、例えば、体脂肪率と血圧との関係の場合、体脂肪率を10%、20%、30%……と変化させて、最高血圧がどう変化するかなど、その場で仮想的な検証が可能だ。しかも「クイックに何度でも仮想的な検証ができる」という。
これまでのR&Dは「ある食材を食べると、健康維持に役立つであろう」などと因果関係を推測して「仮説」を設定、その仮説を証明するために、高精度な実験や試験を繰り返して検証を進め、新製品を生み出してきた。しかし、その「仮説」の多くは、ベテランの研究開発者の経験と勘に頼って設定されることが多く、「仮説」を発見するのも容易ではないのが実情だ。
「データ・エスノグラフィーはR&DのDX(デジタルトランスフォーメーション)とも呼べるものです。データによる仮想的な検証により、『仮説』の発見が容易になり、R&Dの効率化が可能になります」
想像力と創造力を引き出す
イノベーション支援
より具体的に想像してみよう。
最近は「睡眠の質」や「ストレス緩和」が期待できる飲料や食品が注目されているが、データ・エスノグラフィーを使えば、「特定の飲料や食品(またはサプリ)を摂取しているグループ」を対象にプラットフォーム上のデータを自由に駆使して、新たな影響の発見やさまざまな検証が可能になり、新製品のヒントを見つけ出せるかもしれない。
このように、日常のふとした疑問も、低いハードルで仮想的な検証ができるようになれば、R&Dのスピードは格段に速まるのではないだろうか。発想の可能性は無限に広がる。
同社の調査では、約9割のウェルネス・ヘルスケア事業担当者が、新商品・サービスなどの構想段階でテーマの設定に課題を感じていると回答。そのうち約6割が、「手元にデータはあるが活用し切れていない」ことを、約5割は「属人的な経験や勘に頼っている」ことを課題として認識していたという。
冒頭の言葉になぞらえるなら、「日本企業のR&Dはこれまで、データの潜在能力を十分に引き出せていなかった」のである。
ヴェルトの創業は12年。シリコンバレーに本社を置く外資系企業でインターネットの普及と発展に尽力していた野々上CEOが、ネットやテクノロジーと人々の生活や地球環境との調和の取れた社会を目指す「ライフ・テック・リバランス」をテーマに立ち上げた。
この10年余りの間にも、自社製のスマートウオッチをApple Watchより一足先に世に送り出し、IoTのパーソナルプラットフォームを実現させるなど躍進を続けている。
データ・エスノグラフィーにはすでに多くの企業が利用登録を済ませ、イノベーションの加速化を試みているという。ヘルスケアの未来が楽しみになってきた。