北米で好調の"祖業"の
無線システム事業

──好調の要因である無線システム事業ですが、もともとは“祖業”でもあった?

江口 ケンウッドは1946年、長野県駒ヶ根市に春日無線電機商会として設立、ラジオ受信機に最も重要な高周波コイルを開発したのが無線事業の始まりです。その高周波コイルで培った技術をベースに、アマチュア無線機の開発を始めて、銘機といわれる数々の製品をリリース、一方でFMチューナーを主力としたオーディオ事業を展開してきました。

 さらに事業拡大のため、北米の業務用無線市場に本格的に参入したのが1983年。北米では、信頼を得るために品質にこだわり、アナログのトランキングシステム(複数の回線や周波数チャネルを共有することで、多数の利用者へ同時にネットワークアクセスを提供する通信システム)を導入したことで大きく飛躍しました。現在は無線システム全体で500億円規模に成長しています。

──業務用無線の優位性は、どこにあるのでしょうか?

江口 業務用無線は、携帯電話やスマートフォンとは異なり、1対多数の即時通話ができます。また自前のインフラによる確実な通信が可能で、中継機により広域な通信カバーエリアを確保できるため、有事や災害時に強いという特徴があります。さらに堅牢性があるため、警察や消防などの厳しい業務環境に対応できるという優位性があります。今、世界各国では、防災・BCP(事業継続計画)への機運が高まり、危機管理対応として業務用無線の需要が拡大しています。特に米国では、アナログからデジタル無線への切り替え需要が進み、今後も継続する見通しであり、特に警察、消防などの公共安全市場全体へ多額な政府予算が投入され、その需要を後押ししています。

──業績好調の理由には、北米での新製品の投入があるそうですね。

江口 2023年1月に新製品のトライバンド対応無線機「VP8000」を投入する予定で、今北米で受注が増加しています。「VP8000」は三つの周波数帯域と二つのデジタル無線規格を1台でカバーするもので、例えば、同一自治体内の警察・消防と学校セキュリティーとの緊急時の相互通信が可能になります。品質レベルと機能性に関しては世界でも業界最高峰の製品であると自負しており、当社の成長を加速する起爆剤になるはずです。

 もともと無線システム事業は、セキュリティーを担保する必要があり、参入障壁の高い業界。その中で当社は40年以上の実績があり、強固な顧客基盤があります。今後は北米公共安全市場でのシェアを伸ばし、無線システム事業部全体で売上高1000億円を目指したいと考えています。