仮説づくりは営業マネージャーの仕事
――営業マネージャーがPDCAサイクルを回す上で、注意すべき点はありますか。
PDACサイクルの出発点は、仮説づくりです。仮説がなければ、P(Plan)以下のサイクルは成立しません。ただ、営業セミナーなどで仮説の重要性を指摘すると、「仮説が立てられない」という声を多く聞きます。
前ページでKPIのことを、「目標に対する先行指標」と言ったのは、まず目標(Goal)から考える必要があるからです。PDCAサイクルを回す際には、常にゴールを意識しなければなりません。その意味で、私はG‐PDCAという言い方をしています。
毎月3件、300万円の受注獲得を目標とする営業担当者の例で説明しましょう。そのプロセスは引合から見積、受注という流れになっており、引合から見積に進む案件化率は50%、見積から受注に至る受注率は30%です(図4を参照)。
この目標から逆算すると、担当者は20件(図4のKPI①)、2000万円(図4のKPI②)の引合を獲得する必要があります。ここで、多くの上司が「とにかく20件の引合を取ってこい」と指示するのでしょうが、そこには仮説もなければ計画もありません。これでは、単に目標を割り戻しているだけ、気合いを入れているだけです。
具体的な例をもとに、仮説づくりを考えてみましょう。複数の住宅展示場に営業拠点を構える住宅メーカーのケース。20名以上のマネージャーがいる中で、主役になったのはAさんとBさんの2名。展示場への来訪者に説明した後、日を改めてこちらから訪問する初回面談に進む割合が低いという課題を抱えています。展示場では初回面談をOKしていても、後で電話がかかってきてキャンセルされるケースも少なくありません。「キャンセルを減らすにはどうするか」がマネージャー達の共通課題となっていました。
この課題の解決に向けて、他の多くのマネージャー達は、「展示場での興味関心の高め方が足りないから、キャンセルされてしまうんだ」と考え、徹底してPUSH型接客のロールプレイングを毎日のように実施。アプローチツールとしての資料類の見直しにも取り組みましたが、一向に効果がありません。
ところが、AさんとBさんの2名のマネージャーは違いました。
Aさんは「1回の展示場接客だけでは十分に信頼関係が構築できていないのではないか」と考えました。そこで、初回面談までに「お礼訪問」という1つの新たなプロセスを挟むことで、心理学でいう単純接触効果による信頼関係を深めることにしました。そして、部下のメンバーにちょっとした手土産を持たせてサプライズ訪問をさせ、「先日はご来場頂きましてありがとうございました。近くまで来た帰りなのですが、お花をお渡ししたくて・・・。」とお礼をさせたところ、キャンセル率を3分の1以下にまで下げることに成功しました。
Bさんは多くのマネージャーの考えとは逆に「お客様の話を十分に聞けていないのではないか」と考えました。そこで、部下に「展示場接客の目標接客時間を2時間以上」と指示しました。モデル住宅を案内して説明するだけでは、2時間も引っ張ることはできません。必然的に、来訪者の話を徹底的に聞くというPULL型の接客をすることになります。
たとえば、「老後の夢などはありますか」と聞けば、そんなことを考えたことのない相手でも、「そうですねえ」と言いながら話をしてくれます。副次的な効果ですが、2時間も話をすれば他メーカーのモデル住宅を訪ねる気も薄れます。こうして、初回訪問実施率を高めることができました。
「仮説が間違っていたらどうしよう」などと心配する必要はありません。失敗したら別のやり方を考えればいいのです。