EC物流に大きな変革が起きつつある。その仕掛け人は、大手総合物流会社のSBSホールディングスだ。同社が昨年12月に発表した「EC物流お任せくん」は、”日本で誰も実現できなかった”という新たなEC物流の仕組みであり、EC市場のさらなる拡大を強力に後押しするものでもある。

 コロナ禍の巣ごもり需要を背景に市場規模を拡大させた日本のECビジネスだが、EC化率は世界全体が19.6%であるのに対し、いまだ8.7%にとどまる(2021年度、経済産業省調査)など、なおも成長の余地を残している。そうしたECビジネスにおいて、サービス品質とコストの両面から競争力を大きく左右するのが物流だ。

 Amazonなど大手EC専業者は、大規模倉庫に最新の自動化技術を導入することで、高品質・ローコストオペレーション物流を実現してきた。ただ、大多数のEC事業者は自社単独による巨額の物流投資がかなわず、中小規模の倉庫・運送会社へ物流を委託し、その現場はパート・アルバイトの手作業で賄われているのが実態だ。

 そこで、SBSホールディングス(以下、SBSHD)が考えたのが、EC物流のプラットフォーム(PF)化。大手EC専業者が運用するような最先端の自動化技術を導入した大規模倉庫をSBSHDで用意し、さまざまなEC事業者が最適な運用方法で利用できるようにすることで高品質かつローコストのオペレーションを可能とする――これが「EC物流お任せくん」の基本コンセプトとなる。

「EC物流お任せくん」では物流センターにおける入庫、保管、流通加工、発送といった一連の出荷業務のみならず、ラストワンマイル配送やECサイトの制作・運用支援、受注管理までのEC物流に関わる全てのサービスも包括的にカバーする。SBSグループにはウェブサイト制作会社やマーケティング会社もあり、各社の専門的な知識とノウハウで「ECを始めたいが何をすればいいのか分からない」といったスタートアップ事業者でも安心して“お任せ”できるようになっている。

最新自動化機器を導入したEC物流センターが24年完成

 SBSHDが24年に完成を予定する「野田瀬戸物流センター」(千葉県野田市)は、「EC物流お任せくん」のフラッグシップ拠点となる。同所は倉庫2棟で延べ床面積約27万平方メートルに上る巨大な物流倉庫だが、このうち約6.5万平方メートルに、SBSグループのIT(情報技術)とLT(物流技術)を結集した最新の物流機器を備えたEC物流のPFを立ち上げる。

日本で誰も実現できなかった物流プラットフォームは、日本のEC市場をどう変革するのかSBSホールディングス
鎌田正彦
代表取締役社長

 その後も全国主要都市にEC物流倉庫を増設する計画だが、そこで生かされるのがSBSHDの物流施設開発力と資産流動化ノウハウだ。競争力のある用地を自社で仕入れて倉庫を建設し、完成後にそれらを売却して資産を流動化させることで、倉庫賃料を抑制しながら次の物流施設開発の資金を継続的に確保することができる。「物流コストが安くなければECは発展しません。EC物流を日本一安くする力の一つに、当社のこうした物流施設開発ノウハウが生かされます」と鎌田正彦社長は説明する。

 さらに、ラストワンマイルについては一部で自社インフラも用いることで、大手宅配会社に依存しない配達の安定性を確保。SBSHDでは読売新聞社と協業し、新聞配達員がEC荷物を運ぶ「YCお届け便」も1都3県で展開しており、こうしたネットワークを活用するとともに、Amazonの宅配業務受託で培ったノウハウを生かしたB to Cラストワンマイル・ネットワークの構築も視野に入れていく。

日本で誰も実現できなかった物流プラットフォームは、日本のEC市場をどう変革するのか2024年に完成予定の「野田瀬戸物流センター」

 安定性という視点では、ESG経営にも貢献する。野田瀬戸物流センターなどの物流倉庫の屋上には太陽光発電装置を敷設するほか、自動化機器の導入やEC物流全体の最適化で働き方改革やCO2排出削減に寄与。併せて、EC物流での利用も想定される1トン電気自動車の導入も数千台規模で計画されており、「『EC物流お任せくん』そのものがグリーンな物流サービスとなります」。