デロイト トーマツ コンサルティングの戦略コンサルティング部門であるモニター デロイトは、デジタル時代における「人・物・金・情報」に続く第5の経営資源として「コミュニティ」を位置付ける。企業による一方的な価値提案ではなく、企業がステークホルダーとともに価値を共創していく時代においては、パーパスとデジタルでつながったコミュニティが大きな力を発揮するからだ。
デジタルがもたらした
「価値共創」の時代
左│ジャパンリーダー
藤井 剛
TAKESHI FUJII
デロイトの戦略プラクティス、モニター デロイトのジャパンリーダー。社会課題解決と競争戦略を融合した経営モデル(CSV)への企業変革に長年取り組む。デロイト トーマツ コンサルティングのCVO (chief value officer)を兼務。
右│デジタル&アナリティクスストラテジー リーダー
吉沢雄介
YUSUKE YOSHIZAWA
データサイエンティスト職を経て現職。近年はデータ駆動型経済における成長戦略やDX戦略、デジタル関連企業のM&Aを中心に従事。企業活動にエビデンスに基づく意思決定の仕組みと文化を導入することに注力している。
デジタル技術の進化は情報交換の物理的、時間的、量的な制約を解き放ち、企業と顧客の間、あるいは社会の中に存在した「情報の非対称性」を崩した。これにより、情報の非対称性を前提として企業が独自に価値を提案し、それを競争優位として守っていく時代から、顧客や社会といったステークホルダーと価値――とりわけ体験価値や文脈価値を共創していく時代へと移り変わろうとしている。
わかりやすい例を2つほど挙げよう。EV(電気自動車)世界最大手の米テスラは、販売後にもソフトウェアをアップデートすることで車の機能や安全性などを高め、ユーザーの体験価値を向上させている。提案価値を企業が一方的に定義するのではなく、ユーザーがどのようにEVを使い、どのような操作を行っているかといったデータを収集し、そこから得た新たな洞察をもとに、提案価値をアップデートし続けている。EVは移動空間であると同時に、テスラとユーザーが価値を共創する空間でもあるのだ。
もう一つの例は、「納品のない受託開発」を掲げる、あるソフトウェア開発会社だ。同社は納品して終わりの従来型事業モデルではなく、月額定額制で顧客企業のフィードバックを受けながらUI/UX(注)を含めたアップデートを繰り返し、体験価値を高め続けている。
注)ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス。
この会社は、クラウドベースのソフトウェア開発に特化しており、運用フェーズにおいても開発時と同じ担当者がリモートで顧客企業を継続的にサポートしている。
体験価値はユーザーによって異なり、それを決定付けるのはユーザー自身である。ゆえに、価値を創出したり、向上させたりするにはユーザーの体験世界に入り込む必要がある。かつては不可能だったが、デジタル技術がそれを可能にした。
いまや体験価値は、SNSやデジタルデバイスなどを通じて瞬時に共有される。国や時間の壁を超え、共通の価値観によってつながったコミュニティがデジタル空間上に形成され、そのコミュニティが起点となって価値が伝播され、新たな仲間が増え、場合によってはユーザー同士が価値向上の方法を編み出していく。企業もそうしたコミュニティに主体的に関わっていかなくては、価値共創サイクルの蚊帳の外に置かれてしまう。
だからこそ、「コミュニティ」を「人・物・金・情報」に続く第5の経営資源としてとらえ、そこに一定の投資を行いながら、価値を共創していくことが企業に求められるのである。