本当に子どもの力を伸ばす学校

「新しい学力」の進化・拡大を図り、国家・社会に有為な人材を育成する

1990年代から学校改革に取り組んできた海城。人間力(非認知能力)に加え「新しい学力(=高次認知能力/課題設定・解決能力)」の進化のため、中1・中2の幾何学の授業(ロジカルシンキング育成)や理科の実験授業(クリティカルシンキング育成)に力を入れている。

「新しい学力」の進化・拡大を図り、国家・社会に有為な人材を育成する幾何学の問題で論証を重ねていくことで、ロジカルシンキングの力を身に付ける

数学科で
ロジカルシンキングを高める

 建学の精神に「国家・社会に有為な人材の育成」を掲げる海城中学高等学校。1990年代から学校改革に取り組み、今、注力しているのは「新しい学力」の進化と拡大だ。

「新しい学力」とは、課題設定・解決能力を指す。現代社会には解決困難な問題が山積しているが、こうした問題は、記憶重視の知識獲得型の学力だけでは解決できない。自ら課題を設定し、情報を収集・分析して価値評価し、何らかの解を導き出して分かりやすく人に伝える能力が必要となる。海城では、そうした課題設定・解決能力を「新しい学力」の中心に位置付けている。

 その「新しい学力」を育成する一つが、中1〜中3の社会科総合学習だ。

「自分で課題を設定し、取材・調査を行って、分析・熟考して自分の考えをまとめて発表します。実際に自分たちでアポイントを取り、役所や企業、病院、大学の先生の元を訪れ、生の情報を取ってくるというのが海城ならではの取り組みで、中3では30〜50枚の卒業論文を仕上げます。課題設定・解決能力に加えて、論文作成のリテラシーも身に付く。例年卒業論文のレベルは非常に高く、英語で表現すればグローバルにも通用する内容になっています」

 そう話すのは、入試広報室長・ICT教育室長を務める中田大成校長特別補佐 だ。

「新しい学力」の進化・拡大を図り、国家・社会に有為な人材を育成する幾何学のオリジナルテキスト。公理について徹底的に学ぶ

 2021年4月の中学における新課程のスタートに伴って、数学科のカリキュラムがリニューアルされた。具体的には、それまで数学科のそれぞれの教員が個別に行っていた幾何学へのアプローチを一本化し、「中学幾何学」というオリジナルテキストを作成したのだ。

 数学科で育成するのは、ロジカルシンキング(論理的思考力)。中学1、2年は週2時間、この「中学幾何学」の教材を使って授業を行い、「公理」からの論証を徹底的に学んでいく。

「公理」とは、理由を説明せずに正しいと認める事柄のこと。言葉の意味をはっきりと述べたものを「定義」といい、この定義・公理から論理的に導かれた事柄を「定理」という。「中学幾何学」では、三つの公理(結合公理、三角形の合同公理、平行線公理)を使って、あらゆる定理を証明していく。

 例えば、三角形の合同条件という項目では次のような設問がある。

「2辺の長さが等しい三角形を二等辺三角形という。二等辺三角形において、長さが等しい2つの辺がつくる角と頂角、頂角の対辺を底辺、底辺の両端の角を底角という」との定義がある。そして、「二等辺三角形の底角は等しい」という定理3(底角定理)がある。

 そこで、「この定理3を証明しなさい」という問いが投げ掛けられる。生徒たちは公理を使って、それを証明していくのだ。

「生徒たちは、個人で取り組む場合もあれば、グループでアイデアを出し合いながら考えていくこともあります。定理を覚えるのではなく定理を証明しなければならない。生徒たちはこの作業を通じて、数学的な論理的思考力、ロジカルシンキングを鍛えていきます」(中田校長特別補佐)

 この論理的思考の量は、後に数学の複雑な問題を解いていくときの、ロジカルシンキングの基礎となる。一見遠回りのようにも見えるが、数学の世界で必要な証明のための記述力が鍛えられ、同時に言語的な論理の積み重ねにも応用される。

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