仮説力なくして
サステナビリティ経営は
実現しない
SVVのカギは未来の稼ぐ力の可視化にあると理解できましたが、非財務中心のサステナビリティ施策の効果をどう数値化するのでしょう。
林:サステナビリティ戦略の範囲は多岐にわたります。また、従来の経営管理では見ていなかった指標も多く含まれるため、多くの企業はKPIの検証に資するデータを十分に保有していません。
そこで、検証用の保有データが少ない企業もSVVを利用できるよう、PwC独自の「ESGデータセット」を整備しました。このESGデータセットは、6つの資本を基軸に、主要な非財務情報開示基準(WEF、GRI、ESRS、ISO、IFRS S1およびS2など)からデータ項目を抽出しています。さらに資本ごとにデータ項目をグルーピング、構造化しました。過去10年以上にわたり上場企業が開示したデータ、アンケート調査結果など1000以上の項目で構成されています。
図表2は、顧客企業の社内データに、PwCのESGデータセットを補完し、適宜マッピングして、インパクトパスを描いたものです。赤い部分が自社データ、黄色い部分がESGデータセットに該当します。
ただし、点線部分のように、それだけでは埋まらないKPIも存在します。そこで必要になるのが「仮説力」です。仮説づくりは顧客企業とPwC Japanのコンサルタントが協働で行いますが、その仮説に基づき、世の中にある予測データや実験研究データなどをもとに推計値を弾き出し、補完していきます。自社データとESGデータセットによる実数値、推計による補完、これらによって効果検証に必要なピースが揃い、KPI同士のつながりがよりクリアに見えるようになるわけです。そのうえで相関関係が強いパスを強化するなどしていけば、サステナビリティ戦略全体の実効性を高めることができます。
仮説に基づくKPIを用いることへの懸念や批判はないのでしょうか。
林:むしろ重要なのは、仮説だと考えます。仮説をKPIによって検証するのが、インパクトパスの要だといえるでしょう。
我々が測ろうとしているのはあくまで「未来」の稼ぐ力です。未来の実データはどこにも存在しないし、正確に予想することは誰にもできません。むしろ数字以上に重要なのは、自分たちが描いた仮説とそのロジックを高い透明性をもって示すことです。仮説検証を繰り返すうちに数字の精度は高まり、インパクトパスも進化していくはずです。
磯貝:繰り返しになりますが、サステナビリティ経営の先進企業は、自分たちのキャッシュフローに指標がどう影響するのかを理解したうえで自社がやるべきことを選択し、独自のストーリーをもって情報開示しています。株価は一連の取り組みの結果にすぎず、注視すべきはあくまでキャッシュフローであり、その源泉となる未来の稼ぐ力です。サステナビリティ戦略が自社の競争力にどうつながるのか、納得性の高いストーリーが求められている。我々は、その多様なストーリーづくりをSVVで支援していきます。
◉企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部
◉構成・まとめ|西川敦子 ◉撮影|佐藤元一