Box Japanの成長要因について古市社長は、外部要因と内部要因の二つに分けて、次のように説明する。
「外部要因としては、日本法人を設立した13年ごろ、大手企業や公的機関などが大量の個人情報を漏えいさせる事件が相次ぎ、セキュリティ強化の意識が飛躍的に高まったことが大きかったですね。セキュリティ強化のための環境構築には年単位の時間とお金がかかるというのが当時の常識でしたが、『Box』ならすぐに導入できて、保存したファイルがしっかり守られることが高く評価されたようです」
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その後、「働き方改革」によって、いつ、どこにいても社内外で自由にコラボレーションできる環境が求められるようになり、セキュアな状態でファイルやコンテンツが共有できる「Box」のニーズはますます高まっていく。その勢いは20年以降のコロナ禍で一気に高まり、「Box」はリモートワークのために欠かせないツールの一つとして認識されるようになった。
古市克典 代表取締役社長
京都大学経済学部卒業、ロンドンビジネススクール修了(MBA)。NTT、米系大企業、ベンチャー企業、経営コンサルティング会社を経て、2008年日本ベリサイン社長に就任。13年Boxの日本法人Box Japanを立ち上げ、代表取締役社長に就任。以降、現職。
古市社長は、「年齢や性別、国籍を問わず、多種多様な人材が社内外で協業するダイバーシティが急速に進展したことも、日本における『Box』の普及を後押ししたことは間違いありません」と語る。
あえて「日本流」の間接販売方式を採用
このように、外部要因としては、セキュリティ意識の高まりや「働き方改革」の推進が、日本における「Box」の需要を拡大させる力となった。つまり、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展が追い風となった側面が大きかったといえる。
だが、それだけではグローバル収益の19%という一般的な外資系日本法人の平均を大きく上回るシェアを獲得できるものではない。Box Japanがこれほどのプレゼンスを発揮できたのは、「日本市場の特性に合わせた事業活動の実践」(古市社長)という内部要因によるところが、外部要因以上に大きかった。
日本市場に合ったマーケティング活動を実践するために、古市社長が目指したのは「シリコンバレー企業と日本企業の『いいとこ取り』」である。
古市社長は、1985年にNTTに入社し13年半働いた後、複数の外資系日本法人やコンサルティングファームなどでキャリアを積んだ。Box Japanの社長に就任するまでは、別の外資系IT企業の社長を務めている。つまり、そのキャリアを通じて日本企業と外資系企業の「いい点」も「悪い点」も、痛切に体験してきたのである。
古市社長はその経験を踏まえ、「Box」の日本における事業活動では、部分的に「日本流」を選択した。外資系日本法人がSaaSを販売する場合、一般的には海外と同じように「直接販売(直販)方式」を採用するが、Box Japanは国内の大手SIerに販売代理を委託する「間接販売方式」を選んだ。
「直販方式では、お客さまのご要望に直接耳を傾けるので、長期にわたる関係維持や、ご要望を反映しながらプロダクトを継続的に改善できるといったメリットがあります。これがシリコンバレー流SaaS事業の“成功法則”になっているので、われわれが日本で事業を開始する際にも、Boxと親密な関係にある米系SaaS企業の方から直販を勧められました」
にもかかわらず、古市社長はなぜ「日本流」の間接販売方式を選んだのか。