その理由は、「Box」というプロダクトの特殊性にあった。

「ファイル管理とセキュリティ管理を主な機能とする『Box』は、アプリケーションというよりもインフラに近いプロダクトです。インフラとして導入していただくのなら、IT部門にセールスをかけた方がいい。だとすれば、数多くの企業のIT部門と深く関わっている大手SIerと一緒に営業する方が、一気に普及を拡大できるのではないかと考えました」と古市社長は明かす。

 また、業務ごとの用途に特化されたアプリケーションであれば、ターゲットやセールス方法も明確なので直販しやすいが、「Box」は多様な使い方ができる半面、「どの業務で、どう使ったらいいのか」が分かりにくく、的を絞った営業がしにくいという弱点がある。その点、「各企業に深く入り込み、お客さまの信頼を得ているSIerと一緒に営業に行けば、お客様の困り事を聞きやすく、それさえ聞ければ的を絞った提案ができる」とも期待した。

 このように、あえて「日本流」の営業活動を採用したことが、わずか10年で急成長を遂げる大きな力になった。

社員に当事者意識を持たせ、やる気を引き出す

「シリコンバレー企業と日本企業の『いいとこ取り』」という古市社長の考え方は、Box Japanの人材活用にも生かされている。

 例えば、他の外資系日本法人の場合、人材の採用・評価は営業やマーケティング、エンジニアリングといった部門ごとに行われることが多い。本社の各部門にレポーティングする必要があるため、人材の採用・評価も縦割りになってしまう傾向がある。

 しかし、「設立して間もなく、社員数も少ない現地法人では、部門の垣根を越えて人材同士が緊密に連携を図っていかないと業務が回りません。そこで、あえて部門ごとに縦割りにはせず、法人全体として人材を採用・評価する『日本流』の人事制度を取り入れました」と古市社長は説明する。

 一方、シリコンバレー企業には、一般社員でも社長に率直な物言いができるほど組織がフラットで、意思決定が早く進みやすいといったメリットもある。そうした良いところは受け入れつつ、日本企業の良さも取り入れて、「ハイブリッド型の成功モデル」を追求している。

日本法人設立から10年でグローバル収益の19%まで急成長。シリコンバレー企業と日本企業の「いいとこ取り経営」の神髄とは

 日本型の人材採用・評価制度を導入しているせいか、Box Japanの社員は、他の外資系日本法人と比べて勤続年数がかなり長い。

 ただし、これは単に居心地の良さだけが理由ではない。「仕事を通じて社員に成長機会を提供したい。そうすれば会社の成長は後からついてくる」という古市社長の姿勢が、多くの社員たちを定着させる大きな力となっているのだろう。

「やりがいの源泉となるのは社員一人一人の当事者意識です。外資系日本法人は本社の意向に沿ってビジネスを行う傾向が強いものですが、それだけでは人も組織も主体性を失い、やる気をなくしてしまいます。当社は、皆が『日本のことは、自分たちが一番よく分かっている』という自信を持ち、本社が納得できるような提案をして目標を達成することで信頼を培い、さらに当事者意識を高めています」と古市社長は語る。

「SaaS業界は新しい職業機会が多くとても恵まれています。ただし今の知識や経験は1、2年で陳腐化するので絶えずアップデートする必要があり、学習の継続が重要です。一人で学習するとすぐ飽きるけど、皆で教え合っていけばいつの間にか学習できた、となります。社内で図書館効果などと呼んでいますが、そんな環境が理想です」

 社員の主体性とやる気を引き出す古市社長の姿勢が、グローバルにおけるBox Japanのプレゼンス向上の原動力であるようだ。

 古市社長は、「『Box』は、社員同士のコラボレーション強化によって、日本企業の生産性向上を促す非常に有効なツールです。これからも営業、開発の両面で協業するSIerと共に日本企業のニーズにかなった機能や使い方を積極的に提案してまいりますので、ぜひご期待ください」と語った。

●問い合わせ先
株式会社Box Japan
〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-8-2 鉄鋼ビルディング15階
URL:https://www.boxsquare.jp/