心臓突然死は年々増加傾向にあるという。実は、日本はAED大国と呼ばれるほど世界でも人口当たりのAED設置台数が多いのだが、AEDによる救命率はまだまだ低い。まさに秒単位での処置の早さが生存率に直結するという心停止の救命。AEDの効果的な設置と正しい救命法の普及が求められている。

 今日本で、病院外での突然の心停止による死亡、いわゆる心臓突然死は年間6万8000人に及ぶという。その数は交通事故死者数(2012年4411人)の15倍以上であり、単純計算で毎日180人以上の人が突然命を奪われていることになる。

 心臓突然死の多くは、心室細動という不整脈によるもので、突然の心臓のけいれんによって心臓がポンプとして機能しなくなり、やがては完全に止まってしまう。心臓突然死の予知は難しく、それまで病気になったことのない人の初めての不調の症状が心停止というケースが心筋梗塞による死亡の3分の1を占めるという。つまり、心臓突然死は人ごとではなく、誰にでも起こり得ることなのだ。

 心室細動を止めて、元の動きを取り戻すには、素早い電気ショックが必要になる。プルプルとけいれんを起こしている心臓に電気ショックを与え、いわばリセットをかける必要があるのだ。そこで登場するのが、最近、各種商業施設や鉄道の駅、街角でも多く見かけるようになった自動体外式除細動器「AED」(Automated External Defibrillator)である。

1分遅れるごとに
救命率は7~8%低下

石見 拓
京都大学 環境安全保険機構
付属健康科学センター
(予防医療学)

「心室細動の治療には、迅速な電気ショックによる除細動(けいれんを止めて正常な働きに戻す)が最も重要になります」と説明するのは、京都大学・健康科学センターに勤務し、AEDと心肺蘇生による救命を推進する「PUSHプロジェクト」の運営委員長を務める石見拓医師である。

「除細動が1分遅れるごとに、救命率は7~10%低下していきます。目安として5分以内の電気ショックが必要なのですが、救急車の現場到着は通報から平均8分後。通報までの時間を考慮すると、救急車の到着を待っていると、ほとんど助からないことになります。心臓突然死は難しい病気で、専門家の治療が必要であるという先入観がありますが、病院に運ばれてから高度な治療をしても救命率はほとんど変わらない。治療の技術より時間のほうがはるかに大事で、最初のアプローチでほぼすべてが決まってしまう。つまり心停止した人を救命できるのは、倒れた人を目撃した一般の人たちなのです」