倒れた原因は不問
まずはAEDを

 AEDによる電気ショックに加えて、現在推奨されているのは、胸骨圧迫(心臓マッサージ)による心肺蘇生である。脳や心臓は血流が途絶えると数分で不可逆的な障害を受けてしまうため、電気ショックまでの間、ポンプとして機能していない心臓の代わりに、脳や心臓に血液を送り出してあげる必要がある。加えて、心室細動が完全に止まってしまうと、電気ショックの適応はなくなってしまう。心臓マッサージによって心室細動を維持すれば、生存率は2~3倍上昇し、心臓マッサージ×AEDで4倍の救命率が実現するという。

 倒れた人を見かけたら、(1)「119番通報・AEDの要請」→(2)「胸骨圧迫(心臓マッサージ)」→(3)「(AEDによる)電気ショック」という蘇生法が有効なのだ。とはいえ、見ず知らずの人に胸骨圧迫をしたり、AEDを使用するのは勇気がいる。

「最も難しいのは、心停止の状況を認識し、AEDの使用を判断することでしょう。講習会でもよく聞かれるのは、仮に脳梗塞など脳に原因があって倒れた場合も使用していいのかという質問ですが、心停止とは、病名ではなく“状態”のこと。原因が脳であっても心臓であっても処置は同じなのです。AEDは、電気ショックの機器であると同時に、体の状況を診断する機器でもある。必要がなければ作動しません。ですから、迷ったらまずはAEDを使ってほしい」

AEDを使う勇気
まずは知ることから

 実は、現在日本は世界で人口当たりのAED設置台数が最も多い「AED大国」である。しかし、設置基準に一貫性がなく、設置場所や使い方が市民に周知されていないために、せっかくのAEDが“宝の持ち腐れ”になっているケースも多い。心停止の3分の2のケースは、現場に人が居合わせても、救急車到着まで何も処置されていないのが現状だという。

PUSHプロジェクト
http://osakalifesupport.jp/push/
「PUSHプロジェクト」では、「胸をPUSH」「AEDのボタンをPUSH」「あなた自身をPUSH」という3つのPUSHを軸に、「誰もが倒れた人に手を差し伸べる勇気を持てる社会」づくりを目指している。
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 2月24日の東京マラソンでは、1人のランナーが意識を失って倒れた際に、前述(1)~(3)の一連の救命活動が、その場に居合わせたランナーらによって行われた。AEDの存在は、確かに人々の意識の中に浸透してきている。最近は、学校や企業でもAEDの講習会が開かれるようになり、徐々にではあるが心肺蘇生の教育も広がりつつある。

「心肺蘇生は完璧でなくても、やれば助かる人が増える。心停止は何もしなかったら確実に亡くなってしまうのです。胸を押すだけの簡単な心肺蘇生法を学び、AEDを知ることで、誰もが命を救うことができるのです」と石見医師は訴える。今後は社会インフラとしてのAEDの戦略的な設置と、さらなる救命教育の普及が望まれている。