冨山 アメリカをはじめ、実はそういう国は大抵、移民受け入れの国なんです。つまり、移民の出生率は高いから、それが少子化の歯止めに貢献しているということ。とすれば、移民受け入れをしていない日本において、この少子高齢化という問題は、対症療法的には克服できない問題です。ひょっとすると、もっと根深い部分、たとえば私たちの日常の行動とか、あるいは産業の構造といった、人間や社会の本質みたいなところに起因するような気がしてならない。そうした現実を踏まえて、私たち一人ひとりが心地よく自己実現ができ、持続可能な社会構造を作れるかが、おそらく究極的な解決策なのだと思います。
たとえば北陸地方。福井県は2位、富山県は4位、石川県は6位と、女性の就業率が全国でもトップレベル。さらには出生率においても、3県いずれも全国平均を上回っており、なかでも福井県は常に上位に位置しています。繊維業などの地場産業が盛んで、昔から共働き夫婦が多いにもかかわらず、三世代同居という居住環境で子育てをうまく賄っているのです。まさに、少子化対策としての地方型の成功モデルです。しかし、都市部ではなかなかそうはいきません。所得が増えたら子どもも増えるはず――その定説で作ってしまった20世紀モデルの社会保障や産業モデルでは、もはやうまくいかない。そういう意味ではすごく逆説的な言い方になりますが、日本がいま直面している諸問題を解決したら、ひょっとすると少子高齢化は止まるかもしれません。
人口だけに頼らない、
経済成長のモデルとは?
山田 「人口ボーナス」という言葉があるとおり、かつての高度経済成長期のように、人口増加が経済成長に大きく寄与する時代もありました。しかし、現役世代が減少するという「人口オーナス」という時代に入ったいま、少子化対策を進めたとしても限界があります。つまり、人口頼みの経済成長は難しいということです。だからこそ日本は、そうした状況を打破するための「イノベーション」を起こし、少子高齢化社会でも経済成長できる道を探らなくてはならない。むしろ、それがもうひとつの経済成長モデルであると私は考えています。
冨山 たしかにこれまで、経済成長のひとつのモデルは、「人口×生産性」と言われてきました。しかし、経済が成熟した先進国はいま、人口は右肩下がりで母数はなかなか増えない。であれば、生産性をどう上げるかということが重要になってきます。生産性の多くは人間が握っています。しかし、昔と違って教育水準が上がったいま、人の能力による生産性向上には限界があります。また、ITなどの仕組みによって効率化を進めることもできますが、それも限界効用が下がりつつあります。
といったときに求められてくるのが、さきほど山田さんがおっしゃった「イノベーション」です。生産性そのものがイノベーションだと言えるのです。日本がいまぶち当たっているのは、生産性の壁。つまり、イノベーションの壁なのです。