「AIが自分の仕事に与える影響をポジティブに捉えている」割合は62%

 まず、生成AIが働き手に与える影響についての調査結果から見ていこう。「AIによってルーティンワークが減り、戦略的な業務に集中できるようになることを期待する」働き手の割合は59%で、「AIが自分の仕事に与える影響をポジティブに捉えている」割合も62%に達している。一般的に、仕事の時間を節約するテクノロジーであると考えられており(60%)、新たな職業や仕事に就ける機会を切り開く入り口としても注目されている(54%)。

「業種を問わず、多くの働き手がAIの影響を好ましく感じているのが分かります。ただし、AIが自分の仕事にどう影響するか不安だという回答者も24%存在し、中長期的に見た場合に、AIが自分のキャリアにどのようなマイナスの影響を及ぼすかを懸念する声も出ています。働き手の約5分の1はAIによってキャリアを変えざるを得なくなったり、職を失ったりするのではないかと心配しています。このような不安を払拭するためには、AIが仕事にもたらす全体的な影響を理解するための教育や支援が必要になってきます」(平野取締役)

グローバルの独自調査で判明した世界と日本のワークトレンド。「働き手の視点」から見えてきたものとはアデコ
平野健二 取締役兼Adecco COO
2004年にアデコへ入社。人材派遣事業の営業職として大型案件の獲得やトップセールスの記録といった実績を残し、早い段階からマネジメント業務に従事。 支社長、エリア長、事業本部長を経て、18年に執行役員ジェネラル・スタッフィング COOに就任。 22年10月より現職。21年ロンドンビジネススクール修士課程(MSc)修了。

生成AIの導入はオーストラリアが最も多く、日本は下から3番目

 では生成AIは具体的にどのような使われ方をされているのか。同調査によると働き手の70%が現在、ChatGPTやGoogle Bardなどのツールを使用している。ただし生成AIを使用している理由は、「情報を素早く見つけるため」「基本タスク/ルーティンタスクの時間を節約するため」「情報を素早く要約するため」などに集中している。

 平野取締役は、「この結果は、働き手の多くが生成AIを高度な検索エンジンくらいのものだと考えていることを示唆しています。つまり、まだ生成AIの力をフル活用できていないのです。ただし、ビジネスリーダーのポジションにいる人の一部は、生成AIの使い方が少し異なっていて、『デジタルコミュニケーションのスピードアップ/コミュニケーションに費やす時間の削減』に使うことが多く、さらに『新しいアイデアを考えやすくする』ために使用していることが分かっています」

 ちなみに国別でいうと、生成AIの導入はオーストラリアが最も早く(86%)、日本は下から3番目(54%)の位置に甘んじている。この数値の差はかなり大きい。

「複合的な理由があると思いますが、特に日本の場合、企業が情報流出のリスクを恐れて導入をちゅうちょするといった傾向があると考えられます。生成AIを使用しない働き手は、その一番の理由として信頼性の欠如を指摘し(35%)、AI に関するガイダンスを受けている働き手は半数以下(46%)に留まっています。つまり雇用主は従業員に対し倫理的なガイダンスを行い、AIの使い方に関するポリシーを明確にする必要があります」

 いずれにしても働き手はテクノロジーの導入に意欲的で「AIスキルによってキャリアの選択肢が増える」と回答した人の割合は、半数以上の58%に達している。

リスキリング(学び直し)の意識は欧米より10年遅れている

「日本の場合、リスキリングに関しては欧米と比べて10年ほどビハインドしています。22年10月に岸田文雄首相が『個人のリスキリング支援として5年間で1兆円を投じる』と表明して、ようやくリスキリングへの意識が高くなってきましたが、働き手自身の意識はまだ薄いと感じています。その背景には、日本ではまだ終身雇用が主流で、欧米ほど労働市場の流動化もジョブ型も進んでいないことがあります。見方を変えると、テクノロジーの進化に伴い、デジタルスキルを学ぶことで、報酬の高い新たな仕事に就ける可能性が広がっているともいえます」(平野取締役)

 労働力人口の減少に加えてデジタル人材の不足が喫緊の課題となっている今、企業は経験者の採用ばかりに注力するのではなく、今いる働き手にAIスキルといった新しいテクノロジーを学んでもらうなど、教育を支援していく必要に迫られている。実は、働き手の57%は「雇用主がAIトレーニングを実施することを望む」という結果も出ているのだ。現状では、高所得と低所得の働き手の間に生成AI使用率の格差があるのも確かで、AIのトレーニングやスキルアップの機会均等は、雇用主の社会的責任でもあるといえる。