「そもそも自治体が人手不足であるのに加え、規模の小さな自治体では技術系職員の採用が減っています。上下水道は専門性が高い分野にもかかわらず、工学系の知識を持たない職員の方が担当せざるを得ず、何から手を付けたらいいか分からなくて困っているケースも散見されます」(菅社長)

国は上下水道事業における官民連携を推進しており、今まで以上に民間の支援がないと事業が成り立たない状況となりつつある。民間企業には、前述のように複雑な検討項目を着実にクリアし、適切な計画・設計を策定できるノウハウが求められる。そこで、オリジナル設計のように専門性と実績を持つ水コンサルタントの存在感が年々高まっているのだ。

最難関資格「技術士」の取得を強力に支援

日本全体が人口減少社会となっている今、水コンサルタントの数も十分ではない。日本全国の水コンサルタント企業約120社が会員として参加する「公益社団法人 全国上下水道コンサルタント協会」の副会長を10年以上務めている菅社長は、その深刻さを次のように説明する。

「どこも人手を増やそうとしていますが、会員企業の社員数の総数は残念ながら増えていません。話を聞くと、とりわけコンサルティングで中心的な役割を担う技術士の業務負担が重くなっているようです」

水インフラの持続可能性を高めるため、「技術士」育成や社員のウェルビーイング向上に力を注ぐオリジナル設計
菅 伸彦 代表取締役社長

「技術士」は、上下水道部門の他に、道路、河川、都市計画などの建設部門に関わる公共事業において、発注者である地方公共団体が安心して調査・計画・設計・分析・評価などの業務を委ねる技術者を選ぶ際に国内で広く活用されている、文部科学大臣が認定する国家資格である。この技術士は、科学技術系で最高峰の国家資格とされており、取得難易度は非常に高いのだという。特に2次試験の受験には4年以上の実務経験が必要なこともあってハードルは非常に高い。論述型の筆記試験と口頭試験によって、公共事業のコンサルティングを担うに足る表現力やコミュニケーション能力、リーダーシップも審査される。2022年度の合格率はわずか11.7%。ちなみに19〜22年度の4年間の合格率は横ばいだが、18年度は9.1%と1割を切っている(※1)。

技術士は上下水道コンサルティング業務の多くの案件で管理技術者の要件とされており、一般に有資格者数と受注件数には明らかな相関関係があるため、オリジナル設計では20年以上前から取得支援に注力してきた。さらに近年、就職氷河期世代の年齢階層の技術者の絶対数が少なく、熟練技術者の高齢化によって技術伝承が困難になる状況を見据え、支援を強化している。

具体的には、若いうちからの技術士の資格取得を促すために「アーリーバード」「エントリーバード」という二つの制度を導入した。「アーリーバード」は35歳までの取得で最大100万円、「エントリーバード」は5年以内に合格すれば最大50万円、両方とも条件を満たせば150万円が支給される。資格取得後に月々支給される資格手当の引き上げも行った。

「支援を強化してから、社員のモチベーションは明らかに上がりました。すぐ劇的に合格者が増えるほど簡単な試験ではないので、合格者数が大幅に増えたわけではありませんが、『あと一歩』のところまで到達した社員が多くなっています」(菅社長)

同社に所属する技術士の有資格者数は計110人と、社員の3割近くほどを占めている(24年1月現在。社員数は約370人)が、ニーズに対して全然足りない、というのが実感とのこと。理想は高いようである。