「カーボンニュートラルを達成するためには、大きく四つのやるべきことがあります。まず、(1)徹底した省エネ、(2)化石燃料に頼らない発電です。しかし、これだけではカーボンニュートラル達成は難しく、(3)熱や燃料の脱炭素化、(4)製造プロセスの脱炭素化の技術を開発して産業に組み込むことが必要です。グリーン・ファイナンスが対象にしているのは、前者(1、2)の省エネや再エネといった技術が確立されていて普及段階にあるものが大半です。後者(3、4)の産業分野へのグリーンボンド(債券)の発行は1%ほどにすぎません。一方、トランジション・ファイナンスは、熱や燃料の脱炭素化、製造プロセスの脱炭素化という、まだ技術が確立していない取り組みを対象にしています。ただ業種ごと、産業ごとにカーボンニュートラルの道筋は異なるので、移行過程のプロセスを明確化した上で資金を供給していきます」

とはいえ、2050年カーボンニュートラル達成というゴールが決まっているので、省エネや再エネの先頭を走る産業、ゴールに近いポジションの産業を重点的に支援して“点数”を稼げばいいのではないか。畠山局長は、それでは駄目な理由を試験勉強に例えて分かりやすく説明する。

「ゴールに近い産業、遠い産業のどちらにも支援は必要です。試験勉強なら苦手科目を捨てて、得意科目に集中して点数を稼ぐことができるかもしれませんが、カーボンニュートラルは四つの分野、いうなれば4科目全てで満点を取らなければ達成できません。その意味で、グリーン・ファイナンスもトランジション・ファイナンスも両方大切ですが、中でも、取り組みに時間のかかる分野を対象に含むという意味でトランジション・ファイナンスの方こそ急ぐ必要があるのです」

鉄鋼産業は現時点では世界的にも温室効果ガス多排出な産業分野であり、国内でも製造業の業界別CO2排出量の35%(国立研究開発法人国立環境研究所「日本の温室効果ガス排出量データ」2020年度確報値)という高い水準だ。「そのため、既存設備の省エネに加え、(鉄鉱石から銑鉄を作り出す)高炉での水素還元(コークスの代わりに水素を使って製鉄する技術)、(電気の熱で鉄スクラップを溶かす)電気炉の高効率化と大型化、CO2を地中深くに貯留・圧入するCCS、CO2を再利用するCCUSといった技術に複線的に取り組んでいますが、今の時点で確立した脱炭素技術はありません」(畠山局長)。

世界に先駆けて脱炭素技術を確立するために、「トランジション・ファイナンスの活用を検討している企業のサポートをしていきたい」と、畠山局長は経済産業省の積極姿勢を示す。