20兆円規模! 
世界初の政府によるトランジション・ボンド

経済産業省はこれまで、21年5月に「トランジション・ボンド/ローン」等とラベリング(名付け)した資金調達の手引きとして、金融庁、環境省と共同で基本指針を策定するなど、トランジション・ファイナンス市場の確立に向け、環境整備を進めてきた。また外部評価の取得に要する費用の一部を補助する事業を継続的に行ってきており、事業者の費用負担の軽減に加えトランジション・ファイナンスの好事例の蓄積・発信を続けている。

補助対象としてこれまで20社超の案件を採択・公表しており、鉄鋼業界ではJFEホールディングスがカーボンリサイクル高炉、CCU、水素還元製鉄、電気炉での高級鋼製造に関する研究開発資金等を資金使途候補として示し、トランジション・ボンド(債券)での資金調達を実現した。

このように、トランジション・ファイナンスの市場環境整備を行ってきた結果、国内の累計調達額(21年1月~23年3月)は1兆円を超える規模に成長している。ただ、同期間におけるグリーン・ファイナンスによる資金調達規模は5兆円程度と、まだ市場規模に大きな差があるため、「トランジション・ファイナンス市場を拡大するため、引き続き国際発信・国内環境の整備に取り組んでいきたい」(畠山局長)。
 

カーボンニュートラルを実現する世界初の取り組みも始まっている。政府によるトランジション・ボンドとして世界で初めて発行される20兆円規模の「クライメート・トランジション・ボンド」だ。政府自らがトランジション・ファイナンスによる資金調達者となり、国のトランジション計画を示すことで、民間企業のトランジション計画の透明性を高め、脱炭素に向けた資金調達を後押ししていく。

トラジション・ファイナンスが対象とするのは国内大企業に限らない。カーボンニュートラル達成のためにより手厚い支援が求められる中堅・中小企業はもちろん、世界全体の脱炭素化推進に向けて、とりわけ大きな鍵を握るアジアにおいても、トランジション・ファイナンスが重要な役割を果たすことが期待されている。そのために、「AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)を通じ、日本の経験から得られた知見を踏まえた国別ロードマップの策定や、各国金融規制当局と民間金融の対話促進を支援したい」と、畠山局長は力強く語った。