リーガルオペレーションズにおけるテクノロジー活用が「レベル3」に達し、導入したリーガルテックの見直し段階を迎えた企業に対して、以下の六つのチェック項目による判定を渡邊氏が提案する(図1参照)。
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BoostDraftの調査によると、2項目程度にチェックが入った企業が多く、中には全ての項目が当てはまると回答した企業もあったという。渡邊氏は、2項目以上にチェックが入ったら、その企業においては、現在導入しているリーガルテックの導入が失敗している可能性があると指摘する。そして、その原因は「進め方に問題がある」と断言。正しい進め方を知るための「テクノロジー見直し」の処方箋として、次の三つのポイントを挙げる。
【テクノロジー見直しの三つのポイント】
①業務フローの「変容幅」
②AIの得意領域を見極める
③課題出発の思考
要点をぞれぞれ、詳しく見ていきたい。
業務フロー変革は最小単位から始めて「変容幅」を最小に
一つ目の「業務フローの『変容幅』」について、渡邊氏はこう説明する。
「契約を例に取れば、『審査の依頼→契約審査→契約交渉→決裁→押印→管理』と進んでいくのが一般的な業務フローです。一見シンプルですが、企業の規模によっては複数の事業部にわたり数百人単位の関係者が介在する場合もあります。その業務フロー全体を変革することは、変容の幅が大き過ぎるのです。私は米スタンフォード大学のMBA課程で、組織の行動変容について学びましたが、そこで分かったことは、現状が少しでも変化することを、人は嫌うということです。100人の関係者がいたら、変化への反発が100人全員で起こると考えるべきです。だからこそ必要なのは、業務フローを細分化し、領域を絞って変革を進めることです」
細分化による効果はてきめんだと渡邊氏は説明する。変革を必要な業務に限定すれば、それだけ関係者の人数が絞り込まれ、変革への反発も減らすことができる。小さな変革から始め、関係者が許容できるスピードで徐々に変革を進めることで、成果につながっていく。そして、例えば「契約審査」での変革を実現したら、次は「契約交渉」の領域を手掛ける。こうして、関係者の行動変容を自然に促すことができるという。
AIの得意領域を見極め、「餅は餅屋」を原則に
二つ目となる「AIの得意領域を見極める」について、渡邊氏はこうアドバイスする。
「人は新しい技術に接すると、まず『熱狂期』に突入します。AIやメタバースなど、革新的なテクノロジーが誕生すると、これからの生活は大きく変わり、これまで手間だったことも必要なくなると期待します。しかし、次に訪れるのは『失望期』です。過大な期待の反動として、『意外と何もできない』と感じてしまいます。人は、新しい技術が出るたびにこれを繰り返していますが、AIは今、いわば『熱狂期』にあると感じます。今後失望しないために、リーガルテックにおいてもAIの得意領域を見極め、冷静にアプローチする必要があります」
テクノロジーにはそれぞれに得意・不得意がある。AIも同様で万能ではない。過大な期待はせず、使いどころをわきまえた活用が必要となる。
例えば契約審査における業務は、非常に定型的な文書のレビュー、自社の解釈や業界慣行を踏まえた準定型的な文書のレビュー、特定の契約の条件を満たす非定型的な文書のレビュー、そしてこれらの全ての基礎になる文書形式作業の四つに分類できる(図2参照)。
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「AIが得意とする領域は、『非常に定型的な文書のレビュー』と『文書形式作業』です。特に後者などは、人より優れています。逆にその他の『準定型的な文書のレビュー』や『非定型的な文書のレビュー』は得意ではありません」