準定型的な文書のレビューはAIにも一部こなせるが、現状では工数・コストの両面で人が勝っており、テクノロジーのサポートを受けながら人が行うのが良いと説明する。
そして、非定型的な文書のレビューは間違いなく、法務部門の専門的な知識・知見を持った人材や、外部の法律事務所が担当した方がはるかに早く、また結果的にコストも抑えられる。
渡邊氏は、「もし自社で一番多いのが、AIが効力を最も発揮しにくい非定型的な文書のレビューであれば、AIを駆使したツールをやみくもに導入するのではなく別の選択をするべきです」と述べる。そして、人が行うべきところは人が、テクノロジーに任せるべきところはテクノロジーに任せる「餅は餅屋」が原則だと強調する。
課題の要素分析が正しい変革につながる
テクノロジーを見直して成果を上げる処方箋の三つ目のポイントは、「課題出発の思考」によってまず自社の課題を見極めることだ。
渡邊氏は、「正しく自社を分析して把握した『現状』と、目指す『理想』の差が課題です。この差の粒度を上げ、一番小さく実行可能な領域まで落とし込んでギャップを埋めていく必要があります」と述べた。そして、こうした「課題出発の思考」とともに、「テクノロジーは一つの選択肢であり、それを所与にしない」ことを常に念頭に置く重要性を説き、以下のような具体例を挙げた。
「例えば、Aさんが契約の最後に署名する業務に関わっており、そこがボトルネックになっていることが分かった場合、契約書のサインを電子署名サービスに置き換える前に、その業務に人を追加する、もしくは予算が足りないならパートタイム人材を雇用する、またはこの業務を安価に請け負う外部の法律事務所がないかなどを検討すべきです。業務フローを再確認して、Aさんを自身のスキルが活かせる業務に配置し、Aさんより適材のCさんにAさんの業務を任せるなど、人材の再配置も有効でしょう」
冒頭でも触れたように、リーガルオペレーションズの視点で見ると、現在はリーガルテック導入について、大企業を中心にレベル3に進む企業が増えており、これまで利用してきたリーガルテックの見直しの時期に差し掛かっている。また、まだそこに至っていない企業も、やがて同じ状況に至ると渡邊氏はみている。これを念頭に自ら立ち上げたBoostDraftについて、こう位置付ける。
「BoostDraftは、『リーガルテックの見直し期』を見越して、リーガルテック導入が一巡した21年に参入しました。見直し期に企業が何を必要としているのかを見極め、リーガルオペレーションズ高度化のお手伝いをします」
BoostDraftは、テクノロジー見直しの三つのポイントを踏まえた法律専門家向け総合文書エディタだ。Wordに完全に結合され、インターネット接続すら今のところほとんど不要。Wordをクリックして法的文書のファイルを開けば、BoostDraftの全ての機能がWordの機能であるかのように使えるため、誰でもすぐに活用できる。
「われわれのサービスは、AIによって、無駄で苦痛だと誰もが思う定型的な文書作業を自動化します。日常使いするWordに機能を結合させることで、行動変容の幅を極めて小さく抑えているのです。無駄で苦痛な作業は多くの法務部に共通する課題ですので、課題出発の思考にもかなうサービスだと考えています」