TIB×藤本あゆみ スタートアップエコシステム協会 代表理事

ジャングルジムのように上下左右に移動できる
エコシステムを構築したい

スタートアップエコシステム協会 代表理事
藤本あゆみ
大学卒業後、2002年キャリアデザインセンター入社。07年グーグルに転職。代理店渉外職を経て営業マネージャーに就任。女性活躍プロジェクト「Women Will Project」のパートナー担当を経て、同社退社後の16年にat Will Work設立。18年よりPlug and Playでのキャリアをスタート。現在は、執行役員CMOとしてマーケティングとPRを統括。スタートアップエコシステム協会代表理事。

 スタートアップの出発点は、“世の中の不便なことを解決する”ことにあると考えています。そこからビジネスをつくり、経済や文化を創っていく。特に日本では、「失われた30年」を打破するきっかけになると考えています。でも残念ながら日本ではまだ、スタートアップエコシステムが十分に構築されていない。近年は米国のシリコンバレーに続いて、フランスやドイツ、シンガポールなど、いろいろな国が、スタートアップエコシステムをつくろうとしています。忘れてならないのは、その構築には長い時間がかかるということです。

 ではなぜ、日本でスタートアップエコシステムが十分に育たないのか?大きな理由として、失敗することを恐れるメンタリティーがあると思います。世界を見渡せば、成功しているスタートアップのほとんどは、実は何回も失敗を繰り返した上で成功を勝ち取っています。日本では一度失敗すると、そこで挫折し諦めてしまう。メンタリティーの違いもありますが、そこには、強固なエコシステムが構築されていないという大きな要因もあります。

 例えば米スタンフォード大学では、たくさんの起業家が活躍していますが、なぜそれが可能になっているかというと、シンプルに周りが起業家だらけだからです。スタートアップ同士がつながっているため、一度失敗しても他のスタートアップに移って、もう一度チャレンジできるという環境がある。失敗は当たり前で、成長するための選択肢がたくさんある。落ちたら終わりの“はしご”ではなく、“ジャングルジム”のように上下左右に自由に移動できる。それが本来の意味での生態系(エコシステム)の在り方なのです。

 日本にも、スタートアップエコシステムがなくはないのですが、“小さな生態系”が点在しているという形で、それぞれが閉じています。小さな村みたいなもので、村の中のリソースしか使えなかったら、成長はそこで止まってしまいます。スタートアップにとって、他のスタートアップや大学、企業、投資家や金融機関と交流しながら、成長するための選択肢がどんどん増えていくことが大切で、それこそが生態系が豊かになるという意味でもあります。日本でも、そのような生態系を構築していく必要があります。
 
 そういう意味でTIBには、大きな期待を抱いています。今後、スターティングメンバーが定期的にTIBに集まり、さまざまなイベントやプロジェクトがスタートします。大切なのは、ここには起業家を目指す人ばかりでなく、起業をいろいろな形で支援する人たちも集まるということです。出資するだけが支援ではありません。スタートアップのサービスを使うことも支援ならば、ソーシャルメディアで発信することも支援。ここに来て座って仕事をするだけでも、エコシステムの構成要員になれます。起業家ばかりでなく、そういう人たちが増えないと、エコシステムは豊かにならないのです。

 東京都がここでTIBを運営する最大のメリットは、東京にはスタートアップの“食べられる餌”がたくさんあるということです。スタートアップというと、若者が集まって最先端のテクノロジーを使い、画期的な何かを創造している、というイメージがありますが、本来の役割は、人々の不便さを解決し、生活を豊かにすることです。東京に住む一人一人が、不便を解消し、本当に便利さやメリットを享受できる。そのようなサービスが誕生する場所である、という認識を皆さんに持っていただきたいと思っています。

 具体的な「場所」があると、人々の交流が生まれます。対面での交流の大切さは、コロナ禍の中で、多くの人たちが嫌というほど実感したと思います。東京都が運営するTIBは、一般の人々にも開かれ、スタートアップと人々をつなげる“結節点”となるフラットなシステムです。今の日本で急務なのは、スタートアップエコシステムの構築であり、TIBはその起点になれると確信しています。