一方、日本企業が世界シェアの約90%を占める半導体フォトレジスト(シリコンウエハーに塗布し露光を行うための材料)で使われる「光酸発生剤(ひかりさんはっせいざい)」にも注力している。これは最先端の露光プロセスであるEUV(極端紫外線)などの光に反応し、超微細な回路パターンを描くための材料。現在、先端フォトレジスト向けでの同社の世界シェアは約20%で2位だ。

 世界シェアトップの獲得策として、千葉工場にEUVフォトレジスト向け光酸発生剤の新たな生産棟を建設。2023年8月から稼働し、生産能力を従来の2倍以上にアップさせた。

 技術進化が著しい半導体分野で同社が微細化に必要な新規材料を継続的に提供できるのは、冒頭の城詰社長のコメントの通り、次世代・次々世代の技術ノードを見据えたスピーディーな開発力を備えているからに他ならない。半導体メーカーに準ずる設備で実験ができるパイロットラインを設け、顧客と同じスピードで開発が可能な体制も整えている。

「当社は創業107年になりますが、この間蓄積してきた幅広い技術や知見も独自の強みとなっています。例えば、光酸発生剤の土台はもともと他の事業で培われてきた光の制御技術です。近年では当社の事業領域である化学品・食品・ライフサイエンスの基盤技術を融合させ、イノベーションの促進による事業拡大を進めています」(城詰社長)

 今後は、チップの性能を向上させる新たな技術の可能性が見えてきた後工程(ウエハーをチップの形に切り出して半導体に仕上げる工程)にも事業を拡大していく方針だ。

「前工程では、微細化の進展に伴い当社の高誘電材料が必要不可欠となりました。同様に、後工程でも複数のチップを積み重ねて性能を高める3次元積層が進めば、材料のゲームチェンジが起きると予想されます。変化点をしっかりと捉え、技術力で応えることが当社のさらなる成長の機会となります」

約100億円を投資し新研究棟を建設

 その「成長への準備」にも余念がない。直近では、約100億円を投資し、埼玉県久喜市に、先端半導体向け材料などの研究開発を行う「新研究棟」を建設する。後工程で必要とされる新規材料の開発を含め、R&D(研究開発)の機動性を高めるのが狙いだ。26年1月に完成予定で、これまで国内2カ所に点在していた半導体向け材料の開発拠点を集約して効率化も図る。

先端半導体材料でグローバル・ニッチトップの理由2026年1月には埼玉県久喜市に新研究棟が完成。盤石の研究開発体制で、イノベーティブな新製品の創出に取り組む

 韓国サムスン電子や台湾TSMC、米国インテルなど世界トップ企業を顧客に抱えることも、同社ビジネスの強固な基盤だ。むろん、海外展開においても布石を打っており、韓国をはじめ台湾、米国に拠点を設けている。

 韓国では近年、積極的に投資を行ってきた。24年4月、R&Dセンターを移転し従来の7倍の規模で開所。最新の装置を備え、最先端材料の評価・分析のスペシャリティーとして機能する。前述の新研究棟と連携を図る考えだ。また、製造棟(第3工場)を新設し、生産体制を増強中。完工は24年9月予定で、次世代半導体の量産化を見込んだ新規材料の供給体制を整える。

 台湾においても先端半導体向け材料の新プラントを建設、24年4月から稼働している。同社が台湾に半導体材料の工場を設けるのは今回が初めて。

 また半導体製造の『自国回帰』を進めている米国では23年秋、オレゴン州に営業拠点を開設。

「お客さまのニーズにスピーディーに対応するため、世界各国の主要な半導体製造エリアにテクニカルサービスの設置も検討しています。強固な体制を構築することで、世界トップの半導体材料メーカーを目指します」

 これら矢継ぎ早の戦略により、先端半導体の材料分野で次々と「グローバル・ニッチトップ」を確立しつつあるADEKA。先端半導体の需要拡大と技術革新が同社にとって追い風になることは間違いない。「JPX日経インデックス400」や「日経半導体株指数」の構成銘柄に選定され、「隠れた半導体銘柄」として投資家の注目度も一段と高まりつつある。

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