この会社は、顧客のクルマがガソリンスタンドに入ると、その位置情報などをトリガーとして顧客の洗車履歴、車検履歴などを速やかに収集し、「そろそろ洗車はいかがですか」「車検の時期が迫っています」といったメッセージをスマホに送る仕組みを「Braze」で構築した。スタンドに入るというタイミングを逃すことなく、顧客がよく利用するチャネル(SNS、アプリ、メールなど)に情報発信できるのがポイントだ。まさに「4つのR」をしっかりと押さえている。

「Braze」を使った同様のマーケティングは、あるショッピングモールでも行われている。来店客がモール内のどの店舗の近くにいるのかという行動情報と、その顧客の属性情報、過去の購入履歴などを組み合わせて、適切な情報やキャンペーン情報などを瞬時に発信するというアプローチだ。暑い日には、冷たい飲み物やデザートをレコメンドするといったように、気象情報を組み合わせた情報発信もできる。

 水谷社長は「『Braze』の優れている点は、GPSなどの位置情報や気象情報といった外部データも柔軟に取り込み、タイムリーなマーケティング施策が展開できることです。しかも、どんなデータを集め、どのような施策に結び付けるのか、という仕掛け作りは、マーケターの方々が自由に設定できます。IT部門の手を借りる必要がなく、今まででは実現不可能だったスピードと手軽さで試してみたい施策をすぐ実行に移せるのも便利な点だといえるでしょう」と語る。

縦割りの顧客情報を横串でつなぐ

 長年、大企業のビジネストランスフォーメーションに携わってきた水谷社長は、「『Braze』は、日本の大企業にこそ適したカスタマーエンゲージメントプラットフォームだと思います」と言う。

 なぜなら、製造業をはじめとする日本の大企業の多くは、製品やサービス、チャネルごとに顧客管理のためのシステムやデータ、組織が分断されており、サイロ化(横のつながりがなく、孤立している状態)が顕著だからだ。

「私が特に深く関わってきた自動車業界を例に挙げると、車種ごとやディーラーごと、四輪と二輪ごとといったように、縦割りで顧客情報が管理され、同じ顧客に対してバラバラにマーケティングを行っている例も見受けられます。そうした縦割りの顧客情報を横串でつなぎ、一つのブランドとして統一的なマーケティングが展開できるようになるのが、大企業をはじめとする日本企業にとっては非常に大きなメリットだと考えます」

 そのメリットを評価して「Braze」を導入し、ブランド力のさらなる向上に結び付けたのが米国のエスティローダーだ。同社は、化粧品、スキンケア用品、ヘアケア用品、香水など、数多くのブランドを傘下に置くが、それぞれのブランドや事業ごとに顧客情報が分断されていた。「Braze」によってそれらの情報を一元化し、統一的なマーケティングを展開することで、ビジネスの最大化を追求している。

「統一されたブランドイメージを確立すれば、顧客への情報発信力や、顧客を惹きつける力もさらに高まります。Brazeは『Be Absolutely Engaging.』(惹きつけるを、やり切る。)というビジョンを掲げており、ユーザー企業がクリエーティブな体験を実現できるように、先進的な製品・サービスの提供にこだわり続けています。また顧客体験を重視したマーケティング戦略と、DXを取り入れたアプローチは、現代のビジネスにおいて成功を収めるために不可欠です。顧客の期待に応え、さらにはそれを超える体験を提供することで、ブランドの価値をさらに高めることができます」と水谷社長は語る。

秒以下で届く。「超リアルタイムな顧客体験」を実現する世界で話題のサービスとは水谷篤尚(みずたに・しげたか)
Braze代表取締役社長。2000年電通とGEとのジョイント企業であるISID(現:電通総研)に入社。12年フランスの大手IT企業ダッソーシステムズにて、自動車事業の責任者。18年SAPジャパンにてバイスプレジデントおよび、Chief Sustainability Officer。エンタープライズビジネスアプリケーションの領域で、20年以上のキャリアを持ち、自動車業界のビジネスのけん引役として従事してきた。24年4月から現職。

 今後は、業種ごとの課題やニーズに対応した活用を提案するため、日本法人内に業種別のチームも設ける予定だと、水谷社長は言う。

 多様性とリアルタイム性を持った顧客エンゲージメントを実現するため、「Braze」を活用して「4つのR(4R)」に対応したマーケティングを実践する日本企業は、今後さらに増えそうだ。