2025年は「ナレッジブローカー元年」
――オカムラは、「はたらき方のトレンド 2025」(図2)を発表しました。
森田 はい。ワークデザイン研究所がオフィスの調査・研究を行う中で浮かび上がってきた傾向と、社会動向を掛け合わせて2025年のオフィスのトレンドを予測したレポートです。
オカムラはオフィス家具や空間づくりの担い手として、理想のオフィスの在り方を追求し続けており、その研究機関として1980年にオフィス研究所(現ワークデザイン研究所)を設立。以来44年にわたって調査・研究を行ってきました。本レポートは、その蓄積と、最新の調査・研究結果に基づく働き方の未来予測です。
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――どのようなトレンドを示されたのでしょうか。
森田 25年のトレンドをひと言で表す言葉として、「ナレッジブローカー元年」というキーワードを提唱しました。
ナレッジブローカーは経営学の用語の一つで、「知識の仲介者」といった意味を持つ言葉です。組織と組織、部門と部門、人と人などを仲介して、互いの知識や技術、能力を交わり合わせる。25年は従業員の誰もが、そんなナレッジブローカーとして活躍する必要があると考え、キーワードに選定しています。
その上で、25年のトレンドを象徴するカテゴリーとして「交流」「成長」「健康」「効率」の四つを選び、それぞれのカテゴリーごとに二つずつ、計八つのトレンドを選定しました。
働き方コンサルティング事業部
ワークデザイン研究所
森田 舞 所長
佐々木 八つのトレンドは、人材不足や若者の価値観の変化といった課題に、オフィスを変えることでどう対処するか、というヒントにもつながります。
例えば、人材確保や人材育成のためには、「リスキリング(学び直し)」や「メンタリング」などが行える場を設けるのが有効です。会社OB・OGとの協業や再雇用などを促す「アルムナイ(同窓会)」の場を設ける方法もあるでしょう。
働き方コンサルティング事業部
スペースデザイン部
佐々木 基 部長
また、若者の価値観の変化に対応するためには、「アンラーニング(学習棄却、学びほぐし)」という考え方を取り入れたオフィスづくりも考えられます。
アンラーニングは、時代錯誤になった考え方や価値観を捨てるということですが、今の若者の価値観を受け入れるためには、古い価値観をある程度捨て去ることも必要かもしれません。
いずれにしても、そうした場づくりを念頭に置きながら、オフィスの在り方を見直すための参考になればと思っています。
二つの部門の間に社内共創空間を設ける
――「ナレッジブローカー」という言葉が象徴するのは、組織と組織、部門と部門、人と人の交わり合いということでした。オカムラでは、これをどのようにオフィスの空間デザインに落とし込んでいるのでしょうか。
佐々木 一つの例が、東京・赤坂にある当社のオフィス「CO-Dō LABO」です。
ここは、オフィスづくりを主務とするオフィス環境事業本部が入居していましたが、今回の改装で、物流倉庫などを手掛ける物流システム事業本部が移転し、一つのフロアを2部門が利用することになりました。
同じ会社とはいえ、事業領域が異なる二つの部門なので、仕事の進め方や考え方、文化はかなり違います。そこで、一つのフロアを完全に分けてしまうのではなく、二つの部門の間に「交わり合える空間」を設け、お互いに刺激し合えるように空間デザインを一新しました。
具体的には、二つの部門の間に「陽だまり」(写真①)という社内共創空間を設けています。
円形のスペースで、椅子やテーブルを自由に配置できるようにし、勉強会やセミナー、イベントなど、さまざまな用途で使えるようにしました。また、ちょっとしたカフェを併設しており(写真②)、談笑したり、軽く打ち合わせをしたりすることもできます。
他のオフィスに入っている部門の社員も利用できるようにし、全社的な社内共創空間としての役割を持たせています。
森田 当社が発表した25年のトレンドと照らし合わせていえば、「リスキリング」のための勉強会や、「ナレッジブローカー」による部門を超えた交流イベント、OB・OGを招いて交流する「アルムナイ」の場としても利用できる空間です。部署や役職を超えてお互いに刺激を与え合う場所として、人材育成にも貢献できるでしょう。
人材確保のための空間デザインでは、若者ばかりを念頭に置きがちです。シニアの活用も考えるのであれば、両方を見据えた仕掛けやデザインを考えるのも大切だと思います。