「日本の老舗企業」のイメージが強いが、実はばりばりのグローバル企業
先述したように、宝ホールディングスには主に三つの事業がある。酒類や調味料等の製造・販売を行う「国内事業」、海外での酒類の製造・販売と日本食材等の卸売りを手掛ける「海外事業」、遺伝子治療などライフサイエンス産業を支える「バイオ事業」で、それぞれを宝酒造、宝酒造インターナショナルグループ、タカラバイオグループが担う。
日本国内では宝酒造の知名度が高いため、「伝統技術を強みとする、酒類や調味料の老舗メーカー」というイメージが強いかもしれない。しかし、グループ全体を俯瞰すると印象は大きく変わる。
2024年3月期の事業別売上高と営業利益を見ると、全体の売上高3393億円の47%に当たる1600億円超を、海外事業を展開する宝酒造インターナショナルグループが稼ぎ出しており、営業利益では55%を占め、存在感はさらに大きくなる(図1参照)。
バイオ事業を展開するタカラバイオグループも、売上高で13%、営業利益で14%を占め、試薬売上高の海外比率は77%に達している。
これらの業績からも分かるように、宝ホールディングスの“現在の姿”は「力強く成長するグローバル企業」なのである。
「当社グループでは、宝酒造と宝酒造インターナショナルグループによる『日本食文化(和酒・日本食)の世界浸透』と、タカラバイオグループによる『ライフサイエンス産業のインフラを担うグローバルプラットフォーマー』という宝独自の二つのビジネスモデルを確立していくことで、中長期的な価値創造の実現を目指しています」と、宝ホールディングスの木村睦社長は話す。
具体的にどんな事業を展開しているのか。それぞれ見ていこう。
海外で、日本の食文化を広げる
宝酒造インターナショナルグループは、10年に欧州最大の日本食材卸会社である仏フーデックスの株式を取得し、日本食材の卸売事業に本格参入した。16年には、米国における日本食材卸のパイオニアであるミューチャルトレーディング(以下、MTC)もグループ傘下に迎え入れた。以来、「日本の酒=和酒」と日本食をセットで世界に広げる戦略の下、事業を拡大している。
現在は、米国を中心に欧州、アジア・オセアニア地域の日本食レストランに日本食関連商材や清酒などの酒類を卸している。海外市場に日本食材を卸す日系の食品会社は他にもあるが、同社の特徴は、メーカーとしてのものづくりから販売まで幅広いネットワークを有していることだ。同社は、食材卸会社だけでなく、国内の宝酒造やTakara Sake USA Inc.(米国宝酒造)など自前で酒類を製造・販売できる。また、世界で数多くの日本食レストランに強いつながりを持っており、川上から川下まで現場でニーズを直接聞くことができるため、集めた現地ニーズを商品開発やサービスに生かすことができるのである。目下の最重点エリアは北米だ。
JETRO(日本貿易振興機構)によると、22年時点の米国の日本食レストランは2万3000店を超えており、10年時点と比較して1.6倍まで増加している。まだまだ成長のポテンシャルは高い。これらの飲食店を日本の食文化受容の最前線と捉え、MTCでは、コメやのり、しょうゆなどのすし関連商材を筆頭に、自社(宝酒造・米国宝酒造)製造商品はもちろん、地酒・日本産ビールや麺類等の日本食材から包丁などの調理器具・食器類まで、1万点以上の商材を提供している。
海外で和酒を広める活動にも積極的だ。例えば、日本酒ファンの裾野を広げるため、米国宝酒造がメジャーリーグのニューヨーク・メッツと24年度のオフィシャルスポンサー契約を締結。ホームスタジアムのシティー・フィールド内のレストランやスイートルームでは、宝酒造が製造するスパークリング日本酒の「澪(MIO)」が提供され人気を博しているという。
このように、宝酒造が培ってきた技術力とブランド力があればこそ、宝酒造インターナショナルグループは日本食文化を世界に広げるという大役を果たすことができるのである。
24年12月、日本酒や本格焼酎、本みりんといった日本の「伝統的酒造り」が、13年の「和食;日本人の伝統的な食文化」に続き、ユネスコの無形文化遺産に登録された。宝グループは、23ある日本のユネスコ無形文化遺産のうち、「和食」と「伝統的酒造り」という“食”に関する二つの文化遺産に、事業として直接関わっている。今回の登録を追い風に、「日本食文化(和酒・日本酒)の世界浸透」実現を目指し、取り組みを進めていくとしている。
木村 睦 代表取締役社長