新型コロナ感染症対策に貢献したPCR検査のパイオニア
もう一つ、同社の成長をけん引しているのがタカラバイオグループだ。宝グループがバイオ事業に参入したのは1979年のこと。きっかけはビール事業からの撤退だ。宝酒造は57年にビール事業に参入するも、先行する会社の壁は高く10年で撤退し、大幅な人員整理を余儀なくされた。酒類以外に将来の柱となる事業を摸索する過程で、遺伝子工学の実験に必要不可欠な研究用試薬「制限酵素」(DNAを切断するはさみの役目をする酵素)に着目、79年に国内で初めて製造・発売を開始した。02年に宝ホールディングスの事業子会社として分社化して以降も、遺伝子と細胞を扱う技術を磨き続けてきた。
タカラバイオグループは、新型コロナウイルスのパンデミックで一気に注目を浴びたPCR法(DNAを大量に増幅できる技術)のパイオニアでもある。88年にPCRシステムの国内独占販売を始め、93年には自社製造をスタート。PCR関連製品を含む試薬のラインアップは、今では1万点を超える。長年にわたり蓄積してきた技術と知見を生かし、20年以降のコロナ禍では、唾液中のウイルスの有無をスピーディーに判定できるPCR検査キットなども、体外診断用医薬品としてすぐさま開発。激増した需要に安定供給で応え、感染拡大防止に大きく貢献した。
現在タカラバイオグループは、これら試薬・機器の事業に加え、製薬会社や創薬ベンチャーを支援するCDMO(バイオ医薬品の開発・製造受託)事業に参入。また、次世代のモダリティ(治療手段)として期待が高まる再生・細胞医療・遺伝子治療薬の開発・製造にも取り組むなど、強みとする遺伝子・細胞工学技術を土台にして、応用の裾野を拡大させながら、ライフサイエンス市場において存在感を高めている。
ここ数年、事業環境が激変する中でグループ全体の経営基盤が揺らがなかったのは、酒造を原点とした国内事業、海外事業、バイオ事業の3事業で、バランスの良い事業ポートフォリオを構築してきたからだ。
100周年に向けての思い切った投資戦略
宝ホールディングスでは、「宝グループ中期経営計画2025」で、積極的な成長投資戦略を掲げている。
「将来への布石として、成長領域への投資を続ける」という木村社長の力強い言葉通り、中計で最終年度までに計画されている投資額は約880億円。これは、同期間のグループ全体の営業キャッシュフローを上回る規模となっている。
この成果の一つが、北米で進めているM&Aだ。22年のフロリダ州カロリーナ、23年のイリノイ州ヤマショウに続き、経済成長が著しく日本食レストランの増加率も高いテキサス州オースティンを拠点とするミナモトホールセールをM&A。さらに、25年にはテキサス州ヒューストンやワシントン州シアトルにも新規拠点の開設を予定しており、これで米国内の拠点数は15となる。
また、米国に続き欧州においても、24年9月にフィンランドのアグリカを、11月には水産品に強みを持つドイツのカーゲラーをグループに迎え入れ、ネットワークの拡大と高付加価値商品のラインアップ強化をさらに推し進めている。
バイオ事業では、滋賀県草津市のタカラバイオ本社敷地内に、新しい工場棟「遺伝子・細胞プロセッシングセンター3号棟」を建設するプロジェクトが、27年度中の稼働を目指して進行中だ。3号棟では、平時は自社のCDMO事業や創薬事業のために稼働させつつ、いざパンデミックが発生した際には、速やかなワクチン製造・供給を担うことが予定されている。
食の領域では「日本食文化(和酒・日本食)の世界浸透」を進め、医の領域では「ライフサイエンス産業のインフラを担うグローバルプラットフォーマー」を目指す──。宝グループが持続的な成長に向けて、二つのビジネスモデルを強化していく先には、グループビジョンとして掲げた「Smiles in Life〜笑顔は人生の宝〜」が真っすぐにつながっている。「食と医」という、あらゆる人の人生の根本に関わる二つの領域で、笑顔をもっと増やすために。新たな100年に向けての挑戦は続く。