この女性は名前の姓「ジャオ」のみを明かすことを条件に語った。「留守児童としての自尊心の低さと臆病さを実感する」という。彼女の祖父母は読み書きができず、貴州省の村では農作業をするしかなかった。十分に見守られ世話をされた経験がないまま、ジャオさん姉妹は何とか職業学校を卒業した。

 「次の世代には私のようになってほしくない」とジャオさんは話した。

 中国では現在、人口の3分の2が都市部に住んでいるものの、都市戸籍の保有者は48%に過ぎない。これは、都市部で働く10億人のうち約2億5000万人は社会福祉の恩恵を十分に受けられないことを示唆している。中国の人力資源・社会保障省のデータによると、2017年時点で都市の仕事で年金制度の対象になっているか、医療保険に加入している出稼ぎ労働者は22%程度にとどまった。同省はそれ以降のデータを公表していない。

 少子高齢化が進む中国で、政府は出生率引き上げを優先事項に掲げる。劇的な向上が期待できる数少ない施策の一つが、戸籍制度の撤廃だと一部の人口統計学者は主張している。

 米ハーバード大学社会学部名誉教授のマーティン・ホワイト氏は「大都市の支援をいまだに利用できない出稼ぎ労働者たちは、中国の出生率を押し下げる大きな要因になってきた」と指摘する。

 上海財経大学の研究者らによると、制限の厳しい都市で働く出稼ぎ労働者は、比較的規制の緩い都市の労働者と比べ、子どもを持つことを少なくとも1年間先延ばしにする傾向がある。

 カナダ・ビクトリア大学の社会学者、ミン・ジョウ氏が執筆した2021年の研究論文によると、戸籍制度に伴う制限によって、出稼ぎ女性は都市部の女性と比べ、2人目の子どもを持つ意欲が大幅に低下する。

 多くの農村部の労働者にとって都市で暮らすということは、工場が管理する寮の二段ベッドで寝たり、他の労働者とアパートで共同生活をしたりすることを意味する。家族で暮らすためにアパートを借りたり、ましてや購入したりする金銭的余裕はほとんどない。

 そうした余裕がある出稼ぎ労働者は家族を都市に連れてくることが多く、子どもを地元の公立学校に通わせることができる人もいる。また、出稼ぎ労働者の子どもを対象とした私立学校に子どもを通わせる労働者もいる。そうした学校の質はまちまちで、多くは規制されておらず過密状態にあると、香港を拠点とする非営利団体の中国労工通訊が2023年の報告書で指摘している。

 北京市当局は数年前、実質的に農村からの労働者を追い出す大規模な取り組みとして、こうした労働者が多い卸売市場や正式な許可を得ていない事業を閉鎖した。同市は人口を15%削減する目標を掲げ、「違法建築」とみなすものを取り壊した。

 農村からの労働者によって建設された都市ともいえる深圳は長年、他の大都市と比べ、出稼ぎ労働者にとって足場を築きやすい場所だった。ところが他の都市が戸籍制限を緩和する一方、深圳は出稼ぎ労働者に対して子どもの教育へのアクセスや、婚姻による戸籍取得を厳格化している。

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