5年間で6000万ドルを投じる「UPWARDSプログラム」
23年5月のG7広島サミットで署名式を行ったUPWARDSプログラムは、5年間の総投資額6000万ドルという官民で推進する大型プログラムで、日本5校、米国6校の大学が連携して学生に最先端の半導体教育を学ぶ機会を提供し、研究活動を推進している。開始から最初の18カ月で、日本では3500人の学生と教員が参加した。
「UPWARDSプログラムでは、半導体設計、開発、プロセス技術に特化したカリキュラムを設計しました。教授の方々と何度も話し合いを重ねて学生にリーチし、学生の半導体に対する理解を助けるプログラムに仕上がったと思います」(リー代表取締役)
UPWARDSプログラムには五つの柱があり、すでに具体的な取り組みが始まっている(図1参照)。
一つ目は「半導体に特化したカリキュラムの設計と実施」だ。すでに、広島大学や九州大学で講義やプログラムが提供されており、UPWARDSプログラムに参加する大学において、38の新しいコースや半導体に特化した特別講義が追加されている。
女性技術者の活躍の場が広がる半導体業界
二つ目は「半導体分野における女性支援」だ。男性技術者が多い半導体業界に女性の進出を促すため、「私たちは講演などを通じて、女子学生が理工学系学部の魅力に触れ、学ぶきっかけをつくることに力を入れてきました。その中で、女子学生に半導体業界に興味を持ってもらうためには、女性教員の存在が非常に重要であることに気付いたのです。そこで、女子学生が理工学系学部で学びやすいよう、電気工学、材料工学、物理など5分野において世界から12人の女性教員を選出し、UPWARDSプログラムに協力していただいています」(リー代表取締役)。
12人の女性教員の一人、東北大学の田中真美教授(ALicE室長/医工学研究科・工学研究科教授)は、13年度に設立されたALicE(東北大学工学系女性研究者育成支援推進室)の活動を通じて、女性が工学分野でキャリアを継続できる社会の実現を目指している。
UPWARDSプログラムに参加後は、企業との交流会などを通じて、「理工学系学部で学ぶ女子学生たちは、半導体企業で働いてキャリアを形成していく姿をイメージできるようになりました。女子学生に対してこんなにウエルカムな業界は、他にないのではないでしょうか」(田中教授)。
半導体業界が女性技術者を求める理由として、リー代表取締役は「豊かな創造性」を挙げる。「技術的な問題に対して、男性技術者は一元的に見がちです。しかし女性技術者は多元的でバランスが良く、マルチタスキングに優れています。女性技術者がチームに参加して協働することで切磋琢磨する環境が生まれるはず」と期待する。