半導体人材育成を担う産官学の“3本の糸”

 5本柱の三つ目は、「体験型学習」だ。UPWARDSプログラムは、講義や講演といった座学だけではない。体験型学習では「宮城でエンジニア向けのサマースクールを開催、33人の学生が参加しました。実際にクリーンルームに入って半導体の製造プロセスを体験するプログラムです」(リー代表取締役)。座学を通じて知識を増やすことは重要だが、実際の現場に入ることで、「半導体が非常にクリーンな環境下、複雑な工程で製造しているのを体感できます。また、どれだけの知識レベルを必要とされているのかも理解できるはず。それがエンジニアの学習意欲を刺激するのです」とリー代表取締役は体験型学習の重要性を強調する。

 この他にも、四つ目の「半導体とメモリ中心の研究」では15件のターゲット研究を実施、五つ目の「学生および教員の交換プログラム」では、日米の大学の学生と教員が互いに訪問し合うなど、24年2月から8月の間に、合計140人の学生と60人の教員が同プログラムに参加した。

 日本は30年に、「国内で半導体を生産する企業の合計売上高(半導体関連)として、15 兆円超を実現し、我が国の半導体の安定的な供給を確保する」(経済産業省「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後」)ことを目指している。その目標達成に欠かせない企業の一つがマイクロンであることは間違いない。

 一方で、マイクロンも日本に大きな期待をかけている。リー代表取締役はこう語る。

AIの性能を決めるのは「人」。不足する半導体人材の育成に6000万ドルを投じるマイクロンと日米11大学の挑戦マイクロンメモリ ジャパン
ジョシュア・リー 代表取締役
シンガポール国立大学にて電気電子工学を学び、工学修士を取得、1999年にマイクロンのシンガポール工場(旧テックセミコンダクター)にインターンとして入社、その後20年以上にわたり技術開発・移管、製造量産、工場建設などを経験し、2021年5月より現職。産学連携の強化に貢献し、マイクロン財団のプログラムを通じてSTEM教育の推進と学部生の育成のための産学連携プロジェクトも数多く立ち上げている。

「アカデミア(大学)はカリキュラムを設計して学生に理解してもらうことが得意で、政府は政策を作ってサポートするのが得意。私たちは、官(政府)と学(大学)と産(民間企業)の3者が三位一体となって一緒に強くなっていきたいと考えています。1本の糸だけでは弱いですが、3本の糸をよれば非常に強くなります。学生をワクワクさせ続け、将来、この業界に入ってもらえるようにしていきたい」

 人材の育成には時間もコストもかかるが、マイクロンはUPWARDSプログラムにより「覚悟」を示した。近い将来、男女を問わず理工学系学部を目指す学生が増え、高度な理工学知識を獲得した人材を輩出し、半導体業界が活性化する。そんなエコシステムが日本に出現するはずだ。

●問い合わせ先
マイクロンメモリ ジャパン株式会社
https://jp.micron.com/in-japan