中小企業も脱炭素経営でメリットを享受できる
脱炭素は難しそうに思えるが、中小企業は自社でできる取り組みも多いと、同室の水谷嘉敬環境専門調査員は指摘する。
「中小企業の業種別の割合は、製造業などものづくり系が約1割、建築系が約1割、小売サービス業は約6割です。そこで温室効果ガス排出量の約2割を占める中小企業の脱炭素化は、冷蔵庫や空調設備を省エネ性能の高い製品に交換するといった“地に足の着いた取り組み”も必要になってきます。サーバーなどで電気を大量に消費するIT系企業に関しても省エネ管理を徹底することで脱炭素につなげることができます」

脱炭素の取り組みが遅れると自社の将来に大きく影響を与えること、脱炭素実現の取り組みは身近なところから始められることは分かったが、具体的にはどうすればいいのか。環境省は「脱炭素ポータル」(図2)を公開。
CN実現に向けた気候変動対策、再エネ・省エネなどの取り組みに関する多様な情報を発信している。この中で、中小企業経営者(個人も含む)が特に押さえておきたい情報サイトが「脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル)」だ。環境省がどのような補助・委託事業を行っているのかがひと目で分かる。
例えば、「補助・委託事業一覧」では24年度、25年度の事業が掲載されている。もしも事業選びに迷ったら「おすすめ事業診断」を利用すると、融資などの自社に合う事業を見つけることができる。また「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」に掲載されている各社の「活用事例」は自社の脱炭素経営を進める上で参考になるだろうし、各種資料・動画・パンフレットも用意されている。
とはいえ、自社の温室効果ガス排出量を算定することは難しそうに思えるが、峯岸課長補佐によると、同省の省エネ法・温対法・フロン法の同時報告、温室効果ガス排出に関する情報の統合管理を可能とするシステム・EEGS(イーグス)が利用できると話す。24年、排出量の報告義務対象外となる中小企業もEEGSを使って自社の排出量算定や削減取り組み情報を入力し公表する機能が追加された。
中小企業が脱炭素経営をアピールすることで、新たな取引先を開拓できたり、既存取引先や金融機関の評価が高まったり、CNに積極的な企業として人材採用にもメリットをもたらす。まずは、経営戦略に脱炭素の視点を組み込むことが重要だ。
成功事例として水谷環境専門調査員は、コモディティー化していたアルミニウムを再生可能エネルギーを使用し再生アルミに変えて付加価値を持たせた例、ホテルで使用していた金メッキが剥げた食器を研磨してリペア食器として提供、ホテル業界から高い評価を受けた例などを挙げる。リペア食器は環境意識の高いインバウンドにアピールするのだという。
「企業の中でも経営層と現場担当者間の社内エンゲージメントが高まってくると、現場からの改善提案も上がりやすくなります。人材定着、採用力向上という非財務の価値につながるはずです」(水谷環境専門調査員)
大企業のみならず、中小企業にも脱炭素経営へのかじ取りのヒントや方法を得るすべはある。