デジタル実装の成果が拡大! 3年間で30億円を超える経済効果

トライアングルエヒメは、デジタルソリューションや関連技術を愛媛県内の事業者などに実装し、地域課題の解決に挑むデジタル実装事業だ。2022年度に始まったこの取り組みは、年を追うごとに県内外からの注目を集めてきた。25年度からは「トライアングルエヒメ2.0」として進化を遂げ、国内外から過去最多となる約500件のプロジェクト応募を受け付けるまでに成長。国内最大級のデジタル実装事業として、その知名度と存在感は高まっている。中村時広知事は「4年目にして大きな手応えを感じています」と語り、県全体に広がる期待を実感している。

愛媛県はもともと、デジタルの活用に先進的な姿勢を示してきた。18年には県庁内にプロモーション戦略室を設置し、5G(第5世代移動通信システム)サービス開始を契機に急速に進化するデジタル技術を地域に根付かせる準備を整えた。人口減少という大きな課題に直面する中で、経済の持続的成長を実現するためには、デジタル導入と人材育成が欠かせないと判断したのだ。

トライアングルエヒメの仕組みは特徴的だ。補助金制度のように事業者に任せきりにするのではなく、委託料として最大3000万円を県が負担する形を採用。県が現場に入りながらプロジェクトの進捗や成果を直接把握できる体制を築き、全ての実装検証プロジェクトには県デジタル戦略局の職員が伴走支援する。定期的なメンタリングのほか、実装検証先や横展開先のマッチング支援、新たな協業にもつながるデジタル企業同士や地域事業者をつなぐネットワーキング、プロジェクト成果発表会の開催などを行う。

「通常の補助金ではなく委託料としたのは、県もリスクを取って思い切った挑戦をする姿勢で臨んでいるからです。チャレンジ型である以上、全てが成功するわけではなく失敗のリスクもある。その責任は私が負うと明確にしてきました。そのため、プロジェクトの募集に当たってはハードルの高い審査を行っています」

中村知事はそう語り、単なる支援事業にとどまらない挑戦の意義を強調する。

取り組みの成果は確実に表れている。25年度末までの4年間で約1500件もの応募があり、そのうち115件が実証検証プロジェクトとして採択された。これらのプロジェクトを通じて、24年度末までに約2900人のデジタル人材が育成され、14社のデジタル関連企業が県外から新たに拠点を設置した。県内における人材と企業の厚みは着実に増しており、24年度末までの3年間で30億円を超える経済効果をもたらした。愛媛県の産業構造に新たな息を吹き込む成果といえる。

その中でも特に成果が際立つのは、県の強みである農林水産とものづくりの分野だ。八幡浜市真穴地区で行われた「柑橘産地での灌水制御による収益向上プロジェクト」では、東京都のIT企業であるインターネットイニシアティブと協力し、従来は生産者の勘や経験に頼っていた水管理をデータ化。みかん作りのノウハウを地域全体で共有できる仕組みを整えた。その成果もあり、真穴共選の売上総額は約21億円から23.5億円へと約12%増加した。

ものづくりの現場でも、新たな風が吹き込んだ。セラピアが取り組んだ「中小製造企業現場作業員主導型DX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクト」では、現場の従業員が自ら在庫管理や機械操作マニュアルなどのアプリを安価に開発できる研修を実施。従業員が自社の課題を自ら解決するスキルを身に付けたことで、業務効率が大幅に改善され、1社当たり最大7300万円の経済効果を生み出した。また、初年度の県内実装検討先企業がメンターとなって周辺の中小製造企業にも取り組み成果を広げるなど、愛媛のものづくり産業全体の底上げにつながりつつある。

国内最大級のデジタル実装事業、愛媛県発「トライアングルエヒメ2.0」が描く未来図とは?「トライアングルエヒメ」に応募し、採択された事業者たち。毎年2〜3月にプロジェクト成果報告会や新規採択プロジェクト募集説明会が行われる

3年間の実績を踏まえ新たなステージへ

3年間の実績を踏まえ、トライアングルエヒメは「2.0」として新たなステージに進んでいる。今年度からは「稼ぐ力の強化」に直結する分野を中心に選択と集中を図る方針で、農林水産、ものづくり、観光に加えて、生成AI、脱炭素の計5分野を重点的に推進する。

すでに今治市エリアでは、東京大学発のスタートアップであるNoahlogyとタッグを組み、「造船特化型設計AIエージェントによる業務効率化プロジェクト」が動きだしている。技能伝承の遅れや設計工程の非効率性に悩む造船業界において、AIエージェントを導入することで設計工程を50%削減し、国際競争力を強化する狙いだ。

人材育成への取り組みも並行して進む。県内4大学と連携して情報学部などを新設し、次世代を担うデジタル人材を地域に根付かせる体制を構築した。さらに26年に竣工する県庁第二別館の1〜2階に設置する官民共創拠点の整備も進んでいる。民間企業などとの接点を増やし、共創型のプロジェクトを加速させることで、県全体のデジタル実装をはじめ、幅広い分野で課題解決や新たな価値創出を一層推し進めようとしている。

国内最大級のデジタル実装事業、愛媛県発「トライアングルエヒメ2.0」が描く未来図とは?2026年竣工予定の愛媛県庁第二別館。1~2階に官民共創拠点が設置される。新規プロジェクトや新ビジネスが絶えず生み出されるスペースとなる

「トライアングルエヒメの進展は、“デジタル実装フィールドナンバーワン”として愛媛県のプレゼンスを高めます。県内事業者が現場の課題感に合ったデジタル技術を使いこなすことで産業が活性化され、雇用や新たな協業が創出されます。その結果、地域経済の成長がけん引される。今後も失敗を恐れず、デジタル技術の社会実装とデジタル人材育成を継続していきたいと考えています」

国内最大級のデジタル実装事業、愛媛県発「トライアングルエヒメ2.0」が描く未来図とは?

中村知事はそう展望を語る。前例のない取り組みへの挑戦が、今後どのように地域経済を変えていくのか、県内外から大きな注目を集めている。

●問い合わせ先
愛媛県 企画振興部 デジタル戦略局 デジタルシフト推進課
TEL:089-934-7611
(TRY ANGLE EHIME事務局)
URL:https://dx-ehime.jp/