グローバル化により
課題解決の範囲が拡大

 CSVの実現で、二つ目の要素となるのが、物流の効率化やサプライヤーの育成による「バリューチェーンの最適化」である。このアプローチによる成功事例としては、建設機械メーカーが中国の起業家を支援して販売店を育成し、販売網整備を行ったケースがある。

「企業がグローバル化するにつれ、企業活動を通じて、さまざまな問題が出てきます。同時に、巨大企業の一挙手一投足が政府以上の力を持つようになった。つまりそれだけ、企業の責任と貢献できる範囲が広がってきたと考えられます」(川村氏)

 三つ目のアプローチとなるのが、事業を展開する地域でインフラ整備や雇用の確保といった地域貢献を行いながら、自らの事業・収益基盤を強化するという手法だ。これにはフィリピンで船員養成学校を運営する海運会社や、製品や原材料を輸送するため南アフリカで道路や港湾の整備を行った肥料メーカーなどの例がある。

 とはいえ、CSVは一部の先進的な企業だけのものではない。

 企業がCSVを成功させるためのポイントとして考えられるのが、「既存のビジネスにこだわらず、社会的な課題を俯瞰する」、「バリューチェーン全体にまたがるマクロな視点を持つ」という2点だ。

CSVに基づくアイデアが
新たな市場を生む

「社会的課題の解決を事業化するには、これまでの枠にとらわれない発想が必要です。まずは企業を取り巻くさまざまな社会的課題を拾い出し、自社の強みをどのように活かしていけるか検討することが重要です」と川村氏は指摘する。

 また、従来の枠に捕らわれないアイデアを出すためには、トップダウンによる指示よりも、特定のテーマに沿って、事業化のアイデアを社内公募するなどの手法が効果的だと言う。

「たとえば、食品会社が自社技術を応用し、海藻が付きやすく、環境に配慮した護岸用コンクリートブロックの開発に成功した事例があります。通常の発想でこのようなビジネスは生まれません。CSVでは、いかに従来の枠から抜け出した視点を持てるかがポイントと言えます」

 企業が本来のCSRを忘れずに、CSVに取り組むことが新たな市場を創出し、製品やサービスに付加価値を生み出す可能性につながる。これこそが企業価値と社会価値の同時創造に他ならない、と川村氏は強調する。