首都大学東京 システムデザイン学部 経営システムデザインコース 渋谷正弘准教授

 成功している製造業の共通項は、販路をしっかりと確立していて、ブランド力があることだ。このブランド力は、技術力と言い換えてもよいだろう。技術力は、一朝一夕に高めることはできない。だからこそ、コスト面で勝負してくる海外の企業との差別化ポイントにもなる。

 首都大学東京システムデザイン学部の渋谷正弘准教授は「高い技術力は積み重ねから生まれます。日本の製造業はその強みである現場の技術力をもっと生かすべきです」と強調する。

 産業保健人間工学会の理事でもある渋谷氏は、働く人間に注目した生産管理を目指して、労働衛生活動の中の作業管理を積極的に取り込む。すなわち、産業保健人間工学の観点から、予防医学の手法を取り入れた生産管理手法を確立して、生産性や品質の向上を目指す。そこで重要になるのは、働く技術者、人間である。技術力を持つ人間を育てることが大きなテーマになる。そうした人材をどう育てればよいのか。

「収益性だけを重視した派遣社員や契約社員や若い人ばかりの現場は、長期的に見て技術力の低下を招きます。技術を蓄積し、高めていくには、熟練した技術者と若い技術者が現場で協調して働きながら技術を継承していくことが重要です。そうした企業は伸びています」

 働く人がくるくる入れ替わっても変わらない生産性を確保できるような生産現場は、ある種合理的といえるかもしれないが、“誰でもできる”ということはコピーしやすいということであり、結局は価格競争に巻き込まれてしまう。しかし、高い技術力があれば、付加価値の高いオンリーワンのものづくりができるのだ。

「日本の中小企業の生き残りは、大量生産品ではなく、技術力を背景に高く売れるものを目指すことにあるのです」