地震の発生阻止は不可能だが、その影響の軽減は可能だ。そのためには、(1)被害抑止策、(2)被害軽減策(事前の備えで影響を軽減する対策)、(3)災害予知/予見と早期警報、(4)被害評価、(5)緊急災害対応、(6)復旧・復興の六つの対策の適切な組み合わせが重要である。この中で最も大切なのは、構造物や施設の性能アップと土地利用施策による(1)の対策である。理由は、(2)~(6)の対策によって「どんなに優れた事後対応システムや復旧・復興戦略を持とうが、地震直後の建物被害による多数の死傷者を防ぐことはできない」からだ。
地震による犠牲者を減らすには、脆弱な既存建物の補修や補強、建て替えによって、耐震性を高めておくことが最優先課題になる。
本当の意味での備え
しかし、耐震補強の必要性を認識しても、実際に補強を行う建物所有者は限定的だ。目黒教授は、その理由を、金銭的な問題や行政支援の不十分さに求めるのは正しくないと言う。
一つには、地震被害の状況を具体的に想像する「災害イマジネーション」能力の不足だ。防災として、乾パンや水など備蓄のことを考えているようでは、本当に災害に備えているとはいえない。生き残るための対策をしないで、生き残った後の準備ばかりを考えているからだ。
次に重要なのは、耐震補強をとりまく「技術と制度」だ。技術としては、耐震性を高める技術以上に耐震性の高低を簡単に、かつ高精度に評価し、市民にわかりやすく説明できる診断法の整備がポイントだ。制度としては、事前に努力した人が報われるシステムが不可欠である。