新システムの提案
目黒教授は、耐震補強へのインセンティブが働く「制度」として、「新しい公的支援制度(公助)」「新しい共済制度(共助)」「新しい地震保険(自助)」の3点セットを提案する。いずれも、建物所有者の事前の努力(自己資金による耐震診断と補強の実施)によって、現行の基準を満たす耐震性を有する建物を対象としている。
公助とは、そうした住宅が、万が一地震によって被害を受けた場合、損傷の程度に応じて行政から優遇支援される制度である。この制度では、現行制度のように、行政が耐震診断・補強への助成や融資のために事前に巨額の資金を用意する必要がない。また事前の補強で将来の地震被害が大幅に抑止されるため、1棟当たり1000万円超の支援を行ったとしても、トータルでの公的出費は大幅に軽減できる。悪徳業者の排除や住宅ストックの長期的な性能管理にも大きく貢献する。
共助とは、グラフに示すように、オールジャパンの共済制度だ。
そして自助は、揺れ被害免責型の地震保険だ。揺れ被害を受けた場合は前述の公助と共助で十分な支援を得られるので、揺れに耐えた後に火災で被災した場合のみを補償するものだ。耐震性が高く全壊率が低くなると初期出火率は低下する。さらに初期消火条件が良くなるので、延焼率は大幅に低下し、保険料を著しく低くできる。
日本が直面する人口減少は、経済面などからのマイナス面が注目されがちだが、悪い地盤条件や津波危険性の悪い地域から良い地域へ人口を誘導する上では好条件である。
「“いい場所に、いいものを造って、よくメンテナンスして、長く使う”住まい観の創造が、結果として日本人の生活を豊かにし、将来の地震被害を大幅に軽減する解決策になるのです」