タクシーの仕事は「人を運ぶ」ことである。しかし、私たち利用者がタクシーに求めることは、ただ単に「運ばれる」ことだろうか──。そんな問いに対し、タクシーをサービス業として捉え、ドライバーが誇りを持って利用者と向き合うための取り組みを続けているのが「km」のブランドで知られる国際自動車だ。藤森健悦社長に、「人」を軸とした戦略について聞いた。
──タクシー業界の現状をどう見ていますか。
東京ハイヤー・タクシー協会
理事 藤森健悦 氏
Takeyoshi Fujimori/昭和36年、三和銀行入行。平成7年にケイエムリーシング株式会社へ出向し、平成16年に国際自動車株式会社取締役に就任する。同22年に同社代表取締役社長に就任し、現在に至る。また、同25年からは一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会理事を務める。
藤森 大きな変革期にあると考えています。東京では、従来、法人客が多かったのですが、リーマンショック以降、法人の契約数が大幅に減少し、その半面、個人客の利用が増えています。
個人のお客さまは、どのようなときにタクシーをご利用になっているか。急いでいるとき、雨が降っているとき、荷物が多いとき、病院に行くとき──。つまり、「困ったとき」です。私たちの願いは、そのようなお客さまをはじめ、もっと気軽にタクシーを利用していただくことです。そのためにも、もっとお客さまに心を寄せていかなければいけないと考えています。近距離でご利用になるお客さまが、「近くて申し訳ありませんが……」と言われてご乗車になることがよくあります。利用するお客さまが、サービスを提供する側に気を使われる、サービス業として考えられない現実です。こうした現実を変えていくために、会社自らが変わっていかなければなりません。
──変化の方向性とは。
藤森 東京のタクシードライバーの平均年齢は、58歳です。業界の中では70歳を超えるドライバーもいます。私たちは、こうしたベテランのドライバーも大切にしながら、さらに、若い力、若い人を結集したい。若いドライバーの情熱と感性が、業界を活性化させる力になると信じています。
そうした視点からkmでは、4年前より新卒ドライバー採用を業界に先駆けて始めました。1年目が1人、2年目が4人、3年目が10人と、年々採用数を増やし、4年目となる今年は40人採用しています。40人中2人は女性です。来年には、採用者数を150人まで増やし、うち30人を女性社員とする構想を描いています。
この4年間で計57人の新卒ドライバー採用をしましたが、これまでに会社を辞めた人は1人もいません。その理由ですが、一つには給与水準が高いということもありますが、何よりもお客さまに感謝のお言葉を頂ける仕事であるということ、お客さまのお役に立たせていただいているという誇りが、若い社員のやりがいやモチベーションにダイレクトにつながっているからなのです。