グッズ販売やファンクラブ急拡大の裏で次々と課題が浮上
千葉ジェッツは、Bリーグきっての人気チームとして、毎試合多くのファン(同チームでは「ブースター〈後押しする人〉」と呼ぶ)でアリーナを埋める。試合観戦の熱気と一体となったグッズ販売は、クラブ経営の重要な収益源だ。
千葉ジェッツふなばしマーケティング本部マーケティングサービス部長としてMDチームとファンクラブチームを統括する久保山知瑛氏は、事業規模の拡大についてこう振り返る。
「ここ5年ほどで売り上げ規模が約2億円から約6億円へと3倍に成長しました。ありがたいことに毎年右肩上がりが続いています」
MDチームのリーダー、加奈山怜氏によれば、Tシャツ、タオル、ベースボールシャツ、メガホンといったアイテムに加え、マスコットキャラクター「ジャンボくん」を使ったグッズが老若男女を問わず人気だという。
千葉ジェッツのマスコットキャラクター「ジャンボくん」のグッズは年齢問わず人気
ファンクラブも同様に拡大してきた。マーケティングサービス部BCチームの小林英博氏は「Bリーグが発足した10年ほど前は数千人だった会員数が、現在は無料会員も含めると4万人を超えています。特にオリンピックでバスケットボール日本代表が脚光を浴びた頃から一気に増えました」と語る。
実は、こうした急成長の裏側で、千葉ジェッツでは、業務上の課題が次々と浮かび上がっていた。
電卓と手書き伝票の物販オペレーションをPOSでデジタル化
時計の針を戻そう。
千葉ジェッツとアイルの関係が始まったのは、Bリーグが開幕して間もない頃だ。アイルはもともと、Bリーグ開幕1年目に別チームでPOSシステムを導入した実績を持っていた。翌シーズンに入る夏前、その事例が千葉ジェッツの担当者の目に留まり、相談が舞い込んだ。
当時のグッズ販売のオペレーションはほとんどが手作業で、驚くほどアナログなものだった。
「電卓で計算し、全て現金決済、手書きの伝票で管理していました。バーコード管理もなく、昔の商店のようなオペレーションだったので、負担も大きく、ミスも出やすい状況でした」と小林氏。
こうした販売現場の課題に対して、最初に導入されたのが、売り上げや商品情報などを管理できるクラウド型POSシステム「アラジンPOS」である。
「モバイル端末でPOSを導入したことで売り上げ管理の正確性が上がり、スタッフの負担が一気に減るなど、かなりの業務効率化が図られました。回転が速くなった分、売り上げも上がっていると思います」と小林氏は導入効果を語る。クレジットカードなどのキャッシュレス決済も、Bリーグのクラブの中では早い段階から取り入れた。
アイル側の担当者として長年関わってきたCROSS事業部の谷口幸義氏は「当時のBリーグの中では、POSの導入自体がまだ珍しい取り組みでした。現金オンリーだったところにキャッシュレス決済を入れたことで客単価が上がったというお話は、今でも印象に残っています」と振り返る。
このとき導入した仕組みは、その後の規模拡大にも対応することができた。2024年にホームアリーナをLaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)へ移転した際は、より多くの来場者に対応するため販売体制を拡大し、レジ台数は倍以上になった。それでも大きな混乱なく運用できており、加奈山氏は「規模拡大に柔軟に対応できるシステムだと感じています」と評価する。
POS導入を担った谷口氏は、以後も千葉ジェッツの担当を続け、クラブの成長に応じた仕組み作りに関わっていく。
POSと連携したポイント管理も――「CROSS POINT」でファンとの絆を深める
POSの導入から3〜4年後、千葉ジェッツは次のステップへ進む。ファンクラブ向けのポイント・顧客一元管理システム「CROSS POINT」の導入だ。
当時、Bリーグにもリーグ全体のファンクラブシステムは存在していたが、チケット購入や来場によるポイントの付与にとどまり、グッズ購入の売り上げとは連携していなかった。
「リーグのシステムは、われわれがやりたいことからはだいぶ懸け離れていました。来場とグッズ購入の両方でポイントがたまり、ファンにメリットをさらに提供できる仕組みを自分たちで構築したかったのです」(小林氏)
千葉ジェッツふなばしマーケティングサービス部BCチームの小林英博氏(左)と久保田茉貴氏(右)
他社システムの比較検討はほとんど行わなかった。すでに「アラジンPOS」を導入していたため、それと連携できるシステムが必要不可欠だったからだ。「他社のポイントシステムを入れると、POSの見直しも必要になる。自然な流れで、アイルさんの『CROSS POINT』を導入することになりました」(小林氏)。
「CROSS POINT」の導入により、会場でのグッズ購入やオンラインショップでの購入にポイント(同チームでは「マイル」と呼ぶ)を付与できるようになった。ためたマイルは、会員限定イベントの参加権や限定グッズとの交換に活用できる。
導入の成果は、ファンの行動に表れている。現在、「CROSS POINT」を使った会員管理やマイルのグッズ交換を担当しているBCチームの久保田茉貴氏はこう語る。
「マイルをためてサイン会への参加を目指したり、グッズ交換を楽しみにしてくださったりと、ファンの方にマイルを活用して楽しんでいただいていることを日々感じます」
小林氏も、「マイルをためることによって得られる感動体験が、結果的に来場や物販への意欲につながっていると思います」と話す。
さらに、ファンクラブの規模拡大とともに来場マイル付与の方法も進化した。当初はスタッフがPOSを使って1人ずつバーコードを読み取っていたが、1000〜2000人規模の入場者をさばくには限界があった。そこでアイルが「CROSS POINT」と連携するマイル付与専用アプリを開発し、アリーナ内に設置されたiPadなどのモバイル端末で、ファンが自分でマイルを付与できる仕組みへと移行した。
「来場マイルの付与端末を4カ所から一気に10カ所に増やせるようになりました。お客さまが好きなタイミングで付与できるようになり、利便性が大幅に上がりました」(久保山氏)
在庫管理の表計算ソフト依存から脱却――「BACKYARD™」の導入
グッズ販売とファンクラブ管理の基盤が整うにつれ、次の課題として浮かび上がったのが在庫管理だった。当時は売り上げデータをPOSで確認できても、在庫状況は表計算ソフトによる手動管理に頼っていた。
MDチームに所属し、ファンクラブ側のサポートも担いながら受注登録や管理を担当する新井祐織氏は、当時の状況をこう説明する。
「毎日売り上げデータをダウンロードして手動で表計算ソフトに入力していました。タイムラグがあるため、社内で在庫状況を聞かれても、倉庫に確認しなければ確実な答えが出せないという問題がありました」
アイルはこの課題に対応するため、当時開発中だった商品や在庫などのバックヤード業務を一元管理する「BACKYARD™(バックヤード)」を千葉ジェッツに提案。在庫数の数値化とマスター情報の集約を実現し、自社ECサイトとの商品・在庫連携も可能にした。
「当時は販売・在庫管理システム『アラジンオフィス』の導入も選択肢として挙がりましたが、コスト面のバランスを考え、まずは『BACKYARD™』でできることを確認してみましょうという流れでした」(谷口氏)
このように、規模やコストに合わせた段階的なシステム導入こそが、長期パートナーシップを築く上でのアイルのアプローチだった。
事業の急拡大とブラックボックス化――「アラジンオフィス」導入を決断
転機が訪れたのは24年。ここ数年で売り上げが急増する中で、表計算ソフトによる管理の限界はいよいよ明らかになっていた。
千葉ジェッツふなばしマーケティングサービス部の久保山知瑛氏(左)と加奈山怜氏(右)
久保山氏は当時の状況をこう振り返る。
「過去データを含めて表計算ソフトに蓄積していくことに大きな負荷がかかっていた上、エラー発生時のバックアップへの懸念もありました。そもそも、管理シートを構築した前任の担当者しか構造を把握しておらず、私たちは触れることすらできない状態で、どこに何の情報があるのか誰も把握できていないブラックボックスの状態でした」
販路も広がっていた。会場販売とオンラインショップだけだった販路が、委託店舗やポップアップショップへと拡大。複数の場所に点在する在庫をリアルタイムで把握し切れない状況が続いていた。
「在庫のロケーション管理をしっかりやりたい、ECサイトや会場など複数の販路の売り上げを一元管理したい、という明確な課題感がありました」(加奈山氏)
導入に当たって、他社システムとの比較検討はほとんど行われなかった。すでに「アラジンPOS」「CROSS POINT」「BACKYARD™」が稼働している環境で、他社の基幹システムを導入すれば既存システムとの接続コストが膨らむことは明らかだったからだ。
「すでに当社のことをよく知ってくださっている。既存システムとの互換性もある。アイルさんにお願いするのがベストだと判断しました」(久保山氏)
半年以内での本稼働――異例のスピード導入を支えたもの
「アラジンオフィス」の導入プロジェクトが本格的に動き出したのは25年2月ごろ。バスケットボールにはシーズンという制約がある。開幕すれば試合運営や販売対応が本格化するため、システムを切り替えられる時期はオフシーズンに限られる。シーズン開始前の10月からの本稼働を目標に準備が始まった。
打ち合わせ開始から本稼働まで約半年──これは「アラジンオフィス」導入プロジェクトとしても異例の短さだという。担当したアイルのシステムソリューション営業の宮本圭氏は「通常は早くても1年程度かかる基幹システムの導入を半年で実現できたのは、千葉ジェッツさんの課題や目的が非常にクリアで、途中で要件がぶれることがなかったからです」と語る。
準備の過程では、アイルがまずパッケージ版を納品し、現場の習熟度を高めながら後からカスタマイズを追加導入するという2段階方式を採用。他システムとの連携部分など本当に必要な箇所のみをカスタマイズし、標準機能の最大活用を優先した。
導入時の苦労について、加奈山氏はこう語る。
「棚卸しのフローが以前と全く変わったので、最初の棚卸しでは『このやり方で合っているのか』と不安になる場面もありました。ただ、その都度アイルさんに確認して、一つ一つのやり方に習熟していきました」
初の本格棚卸しでも数字の不一致が一時生じたが、その都度アイル側が即座に対応。新井氏は「データの検証を何度も重ねて、正確に移行できました。1円単位のズレもなくなるまで丁寧にサポートしていただきました」と話す。
導入後の変化――属人化の解消と業務効率の飛躍的な改善
「アラジンオフィス」の稼働から約1年が経過した現在、業務の変化は明確に表れている。
最も大きな変化は、表計算ソフトを中心とした属人化の解消だ。以前は特定の担当者しか触れられなかった管理シートが廃止され、在庫情報や売り上げデータが「アラジンオフィス」に集約された。
「以前は商品マスターの管理や在庫の調整に常に特定の1人が時間を割いていました。今はそれが全くなくなりました。1人分の作業コストが一気にゼロになったイメージです」(加奈山氏)
会場での販売データは「アラジンPOS」から「アラジンオフィス」へ自動連携されるようになり、売り上げを手動で入力する作業は完全になくなった。新井氏は「今まで毎日手動でやっていた会場売り上げの入力工数がゼロになりました。在庫データも毎日自動で更新されるので、タイムラグなく正確な状況が把握できます」と語る。
スケーラビリティーも大幅に向上した。加奈山氏は「委託店舗やポップアップショップが増えても、同じやり方で対応できるシステムです。販路が広がることで工数が増えるという心配がなくなりました」と将来への自信を示す。
アイル担当者のサポートが生んだ「現場に寄り添う」関係
10年近いパートナーシップを通じて、千葉ジェッツが高く評価するのがアイル担当者の伴走姿勢だ。
アイルCROSS事業部の谷口幸義氏(左)とシステムソリューション営業の宮本圭氏(右)
「サポートに関しては申し分ありません。何かあればすぐに相談できる。まさに隣にいてくださるような安心感があります」(加奈山氏)
特に印象的なのが谷口氏の現場への関わり方だ。
「試合会場に来ていただくこともあり、レジの裏でオペレーションを観察して、現場での使われ方や課題を自分自身で確かめてくださる。運用面で相談したいことや質問があってお電話すると、すぐに対応していただけます」(加奈山氏)
谷口氏本人はこう語る。
「実際の試合会場でどのようにシステムが使われているかを現場で見ることで、担当者からの報告だけでは気付きにくい課題を拾えることがあります。それを社内にフィードバックすることで、より良いサポートや提案につなげています」
このような現場の運用に基づいた対応が、千葉ジェッツの継続的なシステム拡張と信頼関係の深化を支えてきた。谷口氏は「千葉ジェッツさんがBリーグの中でシステム活用のベンチマーク的な存在になっていて、ジェッツさんを見て導入を検討したいという他チームから問い合わせを頂くこともあります。それはわれわれにとっても非常にありがたいことです」と語る。
今後の展望――リーグとの連携強化と、システムの先へ
千葉ジェッツとアイルが共に見据える次のステージは、ファン体験のさらなる向上だ。
現在の課題として小林氏が挙げるのが、チームのシステムとBリーグ全体のシステムとのデータ連携だ。
「チームのファンクラブシステムとリーグの会員システムが別々に存在している状態です。例えばチケットを購入した際にもポイントが付くようにしたいのですが、リーグ側との連携が必要で、調整が続いています。プロ野球ではすでに、球団と試合のチケット購入が連携したポイントプログラムが普及していますが、バスケットボールではまだこれからです」
アイル側も次のシーズンを見据える。
「今シーズン実現が難しかった機能を含め、リーグ側との調整も行いながら、来シーズンにはより良い仕組みを作れるよう一緒に取り組んでいきたいです」と谷口氏。
「アラジンオフィス」の活用についても、まだ伸び代は大きい。加奈山氏は「導入からまだ1年もたっていないので、できることは分かっているのに手が付けられていない機能も多い。もっと使いこなしていきたいですね」と語り、会計ソフトとの連携やEC受注データとの統合なども視野に入れている。
「スポーツビジネスとして成長を続ける千葉ジェッツさんに、システムの側からこれからも伴走し続けたい。お客さまのビジネスが大きくなるにつれて、提供できるソリューションの幅も一緒に広げていけることが、アイルの強みだと思っています」(谷口氏)
「電卓で手売り」していた日々から、年間6億円を超える物販事業を支えるデジタル基盤の構築まで──千葉ジェッツとアイルが10年近くかけて築いてきたパートナーシップは、スポーツビジネスの成長とシステム活用が同期していく新しいモデルとして、今もその歩みを続けている。

