「通信×金融×リアル」で築く競争優位 「選ばれ続ける関係」をつくる“Fusion”による価値創造

KDDIのパーソナルグロース事業は、3300万の通信契約を基盤に、金融、エネルギー、そしてローソンというリアル店舗までを束ねる。同事業を率いる村元伸弥執行役員は、その守備範囲を縦割りの事業ではなく、生活者の日常の「生活動線」として定義する。金融と非金融の壁が溶ける中、他業種から金融へ踏み込む企業も、伝統的な金融サービス事業者も、同じ問いの前に立つ――長期的な信頼関係に基づき、「選ばれ続ける関係」をどうつくるか。金融サービスを熟知するアビームコンサルティングの森口廉之、鈴木雄大の両氏が、異分野融合による価値創造の実践者に、その設計思想と実装の要諦を問うた。

顧客の生活動線を閉じた事業領域で区切らない

森口:村元さんが率いるパーソナルグロース事業本部は、金融、エネルギーなどの非通信領域、さらにローソンとの連携まで幅広い領域を担っています。まず伺いたいのは、この事業の「守備範囲」をどのように定義されたのかという点です。

村元:お客様にとって、スマートフォンのご利用や日常の決済、コンビニでの買い物は、独立した個別行動ではありません。シームレスにつながる日常の生活動線です。したがって、私が担う事業の守備範囲を、通信・金融・エネルギー・小売りといった閉じた領域として定義しているわけではありません。

3300万の通信契約が強固な顧客基盤となっているのは事実ですが、我々にとって重要なのは生活者とのあらゆる日常接点をいかに包み込んでいくか、お客様の生活全体をどう支えていくかです。生活インフラに関わる領域全般を守備範囲としているのもそのためです。

森口:生活者の日常動線にサービスをシームレスに統合するというお話を、金融という切り口でとらえ直すと、大きな可能性があるように感じます。投資信託や保険のような長期商品は、契約後にお客様との接点が細くなります。通信という「途切れない接点」の上に金融が乗ることで、単体の金融商品では実現が難しい「伴走し続ける金融」が形になるのではないでしょうか。日常生活に溶け込んだ連続した接点があるからこそ、お客様一人ひとりの人生の時間軸に寄り添った金融サービスを設計できる。そうした伴走を、具体的にはどのようなブランドや商品の設計に落とし込んでおられるのでしょうか。

村元:たとえば通信事業一つを取っても、au、UQ mobile、povoというマルチブランドを展開しています。ただし、単に価格帯で市場を切り分けているわけではありません。金融をはじめとする多様な付加価値を選べるのがauであり、シンプルさを追求しているのがUQ mobileです。この2つのブランドには、「リアル店舗で提供されている」という安心と信頼の軸が存在しています。こうした基盤があるからこそ、逆にオンラインに特化し、お客様自身がデータ容量などを自由に選べるブランドとしてpovoが存在できるのです。

リテラシーの差やライフステージの変化に合わせてどのような顧客体験を提示していくべきか、その観点からブランドと体験の最適なアプローチを設計しています。「このアセットがあるからこそ、お客様に新しい体験をお届けできる」と構想する。事業者目線での領域拡張ではなく、常にお客様の姿を見据えながら、新しい事業に取り組んでいます。

「通信×金融×リアル」で築く競争優位 「選ばれ続ける関係」をつくる“Fusion”による価値創造
村元伸弥 氏
KDDI
執行役員 パーソナルグロース事業本部長
1995年KDDI入社。通信および非通信ビジネスに幅広く携わり、マーケティングの推進や事業のデータドリブン化に取り組むなど、さまざまな領域で実践を重ねる。2026年より執行役員 パーソナルグロース事業本部長。金融・決済、ライフスタイル各種サービスに加え、ローソン、デバイス、エネルギー、新規グローバル領域まで、パーソナルグロース事業全般の管轄責任を担う。

「届け方」を描き切れないと事業は頓挫する

森口:デジタルの世界ではパーソナライズされたレコメンデーションが日常化し、生活者側は食傷気味になっている側面があります。リアル店舗という「偶然の出会い」の場は、差別化になりえるのではないでしょうか。金融窓口が“構えて”来店される場だとすれば、コンビニは“素の生活”が垣間見える場です。リアル店舗を「その日その瞬間の生活文脈」をとらえるセンサーとして活用すれば、オンラインだけではつくれない体験が設計できると思います。

村元:同感です。現在、ローソンではpovoのデータ容量を追加できる「ギガチャージカード」を取り扱っています。オンライン専用ブランドのpovoをリテールチャネルに持ち込むために、レジで支払うと有効化されるPOSAカードとして店頭展開したのです。手探りでのスタートでしたが、現状では開始後1年間で販売枚数は前年比約9倍に急増し、足元ではさらに伸びています。

売上げの高い店舗を分析して見えてきたのは、音楽フェスなどの会場へ向かう道中のローソンで大量に購入されているという事実でした。フェス参加者はその場でSNSに投稿するため、データ容量が不足することがあり、ギガチャージの購入ニーズがあることがわかったのです。デジタル上の顧客接点だけでは把握できないニーズでした。

森口:SNSに投稿したいからギガチャージを買う話は示唆的で、金融業界にも学びが多いと感じます。金融商品の購入動機は「将来のため」という抽象的・理性的な言葉で語られがちですが、日々の感情に結び付いた動機もあるはずです。生活の中の「いまの気分」から金融行動が立ち上がる瞬間をとらえられれば、金融商品も「いまを楽しむための手段」として提案できるかもしれません。そうした感情に寄り添い続けるには、目先の条件面での訴求だけでは限界があると思います。

村元:ポイント還元率や短期的な割引のような目先の条件でお客様をつなぎ止める戦略は、他社がよりよい条件を提示すれば離脱を招きます。我々が目指すのは、旧来型の囲い込みではありません。生活者にとって最も信頼できるパートナーとして「自然と選ばれ続ける関係」、すなわち真のエンゲージメントを構築することです。「困った時にここに行けば解決できる」というニーズに応え、「満足感・安心感」を提供し続ければ、お客様が簡単に他社へ乗り換えることはないはずです。

鈴木:リテール金融の観点から顧客を見ると、「財布のシェア」の獲得という発想になりがちです。家賃、食費、通信費、光熱費といった支出を分析し、顧客のどの支出項目にアプローチするのか。必要なケイパビリティを自前で獲得するのか、アライアンスを通じて構築するのかといった観点で商品設計を行うのが一般的です。御社は商品設計の際の着眼点として、何を重視されていますか。

村元:事業の成否は、「顧客接点」、すなわち「チャネル」をどう構築できるかに左右されます。だからこそ、法規制などの諸条件をクリアしたうえで、最適な「届け方の設計」を重視しています。商品設計をプロダクトアウトの発想で進めた事業が頓挫するのは、お客様への届け方が描き切れていないためです。

そしてもう一つ重要なのが、データの活用です。データは一部の分析担当者が扱うだけではなく、現場のマーケターや営業、店舗スタッフなど全員が使う共通言語となって初めて力を発揮します。商品設計の段階で、誰にどのようなデータを提供するか。これを設計することも成功の要諦だと考えています。

契約後も切れない接点が金融の時間軸を変える

森口:御社には、顧客との関係が途切れない通信契約という強みがあります。学割の通信プランから始まった接点が、進学、就職、結婚、住宅購入といったライフステージの変化に従って、保険や住宅ローンへとつながっていく。一度きりの契約で終わらず、金融の時間軸そのものを変える可能性を感じます。

「通信×金融×リアル」で築く競争優位 「選ばれ続ける関係」をつくる“Fusion”による価値創造
森口廉之 氏
アビームコンサルティング
プリンシパル
金融業界を中心に、事業ポートフォリオ変革、組織・業務改革、デジタルトランスフォーメーションに関するコンサルティングサービスに従事。業界特有の商習慣や規制環境を踏まえた実践的な改革支援とグローバルネットワークを強みとし、国内外のプロジェクトにおいて戦略の立案から現場への実装まで一貫して伴走。

村元:金融はお客様とのエンゲージメントに大きな影響力を持ちます。通信会社として金融領域へ踏み込んだのは、当社が最も早かったと思います。2008年にモバイル特化型の「じぶん銀行」(現auじぶん銀行)を設立したのち、プリペイド型決済サービス「au WALLET」(現au PAY)を開始、2018年には当時の社長だった髙橋(誠氏、現会長)が「通信とライフデザインの融合」を事業戦略に掲げました。通信料金プランと金融サービスをバンドルした「auマネ活プラン」の提供を始めたのが2023年で、これも通信会社としては初の試みです。そして2026年、現社長の松田(浩路氏)の下で「Fusion」を戦略の柱として掲げ、通信を起点に金融やリアル店舗での生活の営みを融合させる「Real-Tech Fusion」(リアルテックフュージョン)を推進しています。

森口:「Fusion」は、一時点の取引ではなく、生活全体を通じた継続的な関係を志向されているということですね。実際にauマネ活プランでは、通信サービスの利用や日々の買い物決済が、そのままお金やポイントを貯める行動につながっていくと伺いました。

村元:その通りです。金融や資産形成は「どこか難しい」ととらえられがちです。auマネ活プランは、そこに商機があると思って始めました。自然とお金やポイントが貯まり、お客様の金融のとらえ方や行動様式が変化していくことを意図しています。それをauショップというリアルな場で気軽に申し込めることも、幅広いお客様にご支持をいただいている大きな要因だと思います。たとえば、お客様は貯まったポイントを資産運用に利用することもできます。このような手軽なサービスを通じて、金融リテラシーの壁を取り除くことにも挑戦していきたいと考えています。

森口:日々の生活の中で自然とお金が貯まる設計は、感情にひも付いた動機と資産形成を結び付ける発想にも通じますね。特に、スポーツやエンタメ系コンテンツに強みを持つ御社の場合、「推し活」のような感情的な動機と資産形成をひも付けて、新たな価値を提供していくことも構想できそうです。

村元:住宅ローンも感情にひも付いた動機と無縁ではありません。お客様の人生最大の決断となる住宅購入に寄り添うため、住宅ローンサービスにはこだわってきました。auじぶん銀行の住宅ローンは金利だけでなく、団体信用生命保険の内容も魅力的で、それをよりお得に利用できるからこそauを選択し使い続けるというシナジーがあります。このような「感情」にひも付く価値提供を今後も探索したいと思います。

「先んじて手を打つ」ことが将来の信頼をつくる

鈴木:リアルテックフュージョンの象徴である「ハッピーローソンタウン」は、地域社会の再生や災害への備えといった課題の解決を担う試みと理解しています。リアル店舗を課題解決の入り口としてどう機能させ、価値創造へ結び付けていくお考えですか。

「通信×金融×リアル」で築く競争優位 「選ばれ続ける関係」をつくる“Fusion”による価値創造鈴木雄大 氏
アビームコンサルティング
ダイレクター
大手SIer、総合ファーム、Big4(監査法人系4大コンサルティングファーム)戦略チームを経て、アビームコンサルティングへ参画。主に金融機関やフィンテック企業に対する経営戦略・事業戦略・経営統合のコンサルティングサービスに従事。Web3ファイナンス、オンチェーン金融の調査研究、金融機関の事業検討支援も手掛ける。

村元:我々の最大のチャレンジは、通信や金融で培ったビジネスモデルを、生活空間の最前線であるローソン店舗に融合させ、血の通った体験として届けることです。未来形のコンビニ、ハッピーローソンタウンには、衛星通信のStarlink(スターリンク)を設置し、災害時でもお客様が通信できる環境を整えています。生活の困り事を気軽に相談できる「Pontaよろず相談所」というリモート接客設備も置いています。

ハッピーローソンタウンや学生スポーツを支援する「ANYTEAM」などの取り組みに共通するのは、「生活者との信頼を深める手段として、課題解決がある」という考え方です。たとえば東京都日野市のハッピーローソンタウンでは実証実験として、買い物が困難な団地住民向けに専用のタブレットを配布しています。自宅からローソンの商品を注文し、受け取れる仕組みです。使いこなせない方は、ビデオ通話で店舗スタッフのサポートを受けながら購入もできます。人の温もりを途切れさせないコミュニケーションをいかにテクノロジーで支援していくかを考えた結果です。

鈴木:全国約1万4700店のローソンには、介護拠点型の「ケアローソン」や、処方薬を扱う「ファーマシーローソン」があります。それと同じように「ファイナンスローソン」があってもいいと思います。店頭や敷地内にブースを設置し、対面あるいはリモート接客システムを通じてフィナンシャルプランナーにお金の相談ができる。「孫の教育資金を援助したい」「年金のやりくりをどうしたらいいか」といった相談です。金融機関の支店統廃合などで金融サービスへのアクセスが先細りする地域では、社会的価値が大きいのではないでしょうか。

村元:我々もそういう思いを持って、Pontaよろず相談所の実装を進めています。金融だけでなく、ヘルスケアサービスのニーズも大きいはずです。このようなリモート接客システムを自治体施設や鉄道の駅構内に置きたいという声もあります。

地域によって生じる経済格差や金融など各種サービス提供機会の格差をどう解消していけるか。この挑戦こそがリアルテックフュージョンの真骨頂です。価値を実感してもらうには時間がかかるかもしれませんが、先んじて手を打つことが、将来的な信頼の礎になると思います。その中心になるのが生活インフラとしてのローソンであり、さまざまな課題解決の結節点になると確信しています。

データを共通言語にし、自前主義を捨てられるか

森口:金融や通信も含めたデータを保有していることは、ファイナンシャルインクルージョン(金融包摂)の観点でも社会課題の解決につながると思います。たとえば新しい視点での与信や保険設計もできるはずです。

先ほど、現場のスタッフまでデータを使いこなすことが届け方の質を左右するというお話がありました。一方で、AIが前提となる社会でも、最終的な購買の意思決定は人間が行うことに変わりはないと思います。その意味でも、社内での共通言語化に留まらず、業界の垣根を越えた協業の土台としてデータを位置付けることが、次のフェーズでは重要になるのではないでしょうか。

村元:決済・金融のデータは、資産状況の変化やライフイベントなど、生活者の未来の意思決定を映し出す鏡です。ここに通信の利用データやローソンでの購買データを掛け合わせれば、中長期的な顧客理解が深まります。厳格なデータガバナンスを含め、お客様からの信頼を最優先に確保することが、データ活用の大前提です。

AIエージェントの時代へと移行し、個人の購買や意思決定をAIが代行する世界が到来しています。多くの企業が、AIのアルゴリズムに自社がどう選ばれるかという対応だけに終始すると、提供価値の均一化とコモディティ化は避けられません。商売の本質はいつの時代も人間同士のコミュニケーションであり、ローソンというリアルな接点はAI時代においても競争優位の源泉です。デジタルとリアルの融合によって既存の枠組みそのものを再定義すること。それが、私たちが取り組むべきゲームチェンジです。

森口:その再定義を進めるうえで、多くの企業が直面するのが「自前主義をどこまで捨てられるか」という問いだと思います。自社のデータやアセットを抱え込んだままでは、従来の延長線上の発想から抜け出せません。

鈴木:情報銀行のように情報を売り買いするビジネスも一時期見られました。当初期待されたほど発展しなかったのは、生活者が求めるサービスではなかったからだと考えられます。単なる収益化の手段ではなく、顧客との信頼関係を築く基盤としてのデータやアセットの意義こそが大きいのだと感じています。

村元:自社の都合や目先の損益に囚われている限り、本当のゲームチェンジは起きません。事業を牽引するリーダーに求められるのは、業界の壁や自前主義を捨て去り、社会課題や生活者の不都合を解決するために「どのような人と組んでどんな未来を描くか」という大きな構想力であり、それをやり抜く強い覚悟です。KDDI単独でゲームチェンジを起こすのは難しい。異なる強みを持つプレーヤーが対等なパートナーとして循環型エコシステムを構築できれば、大きなインパクトを生み出せます。そのためには、パートナー同士が同じ景色を共有できるかが重要です。

私たちが描くのは、効率一辺倒の社会ではありません。高齢化や過疎といった課題を抱える地域で、テクノロジーやリアルな接点が安全と温もりのあるコミュニティを守り続ける。それが、リアルテックフュージョンの価値だと考えています。

鈴木:循環型エコシステムでは、プレーヤーの役割や強みを足し算するだけでは、大きなインパクトは生まれません。累乗的に価値を拡大するドライバーは、「信頼」だと思います。顧客に価値を届けるチャネル、ライフスタイルに寄り添うデータの活用、同じ景色を共有できるパートナーシップ。それらが掛け合わさることで、カスタマージャーニーの中で自然なタイミングで適切なサービスが提供され、企業に寄せる信頼と享受する価値の双方が高まります。

時代とともに信頼の形も変わります。私たちはコンサルティングファームという立場から、顧客にとって価値のある信頼の形、半歩先を行く信頼の形とは何かを提言し続けたいと考えています。

森口:その「半歩先の信頼」をどう描くかに、まさに我々が果たすべき役割があります。異業種のプレーヤーが対等なパートナーとしてエコシステムを組む時、データの定義や評価軸、ガバナンスの考え方は企業ごとに異なります。その違いを共通言語に翻訳しながら、各社が自前主義を手放しても損をしないという合意形成を支援すること。そして、足し算ではなく掛け算で価値とインパクトを生み出す構造を、信頼という軸から設計し続けること。それこそが、私たちコンサルティングファームの存在意義だと考えています。

企画・制作|ダイヤモンドクォータリー編集部

構成・まとめ|田原 寛 撮影|鈴木愛子 イラスト|宇那木孝俊

●問い合わせ先
アビームコンサルティング株式会社
〒104-0028 東京都中央区八重洲2-2-1 東京ミッドタウン八重洲 八重洲セントラルタワー
https://www.abeam.com/jp/ja/

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