有効求人倍率の上昇、失業率の低下など、景気回復とともに雇用状況が改善し始めている。さらに進む少子化と併せて、いずれ本格化する採用難の時代に優秀な人材をどう確保し、つなぎ止めるべきか。コストを最小限に抑えつつ、社員のやる気や帰属意識を最大化する人事制度のあり方が問われている。
アベノミクスや2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定による景気回復への期待とともに、企業の雇用意欲は少しずつ改善している。人材採用が「買い手市場」から「売り手市場」へと転換し、少子化による生産人口の減少と併せて、長期にわたって深刻な人手不足が続くことが懸念される。こうした時代に、どうすればより多くの優秀な人材を確保し、長くつなぎ止められるか。すでに企業の模索が始まっている。
「かつて一般的だった終身雇用、年功序列型の人事制度は、人材を確保するのに有効である半面、総額としての人件費が上がりやすいデメリットがあるため、グローバル競争時代にはそぐわなくなってきています。かといって、米国型の成果主義が理想的かと言えば、必ずしも日本にマッチしているとは言い切れません。厳しい人事評価などによって、働きにくさやつらさを感じ、メンタル不調に陥る人材が増えている側面もあります」と、山梨大学生命環境学部の西久保浩二教授は話す。
年功でも成果型でもない
新しい制度を模索
山梨大学 生命環境学部
地域社会システム学科教授
1958年大阪府生まれ。神戸大学経済学部卒業。明治生命保険勤務などを経て、筑波大学大学院経営政策科学研究科企業科学専攻博士課程単位取得。東京大学社会科学研究所客員助教授などを経て現職。専門は経営学(人的資源管理論、企業福祉論、消費者行動論)、人的資源管理論。近著に『戦略的福利厚生の新展開─人材投資としての福利厚生、その本質と管理─』(日本生産性本部生産性労働情報センター)。
そうした中、従来の年功序列型でも成果型でもない、「新日本型」とでも呼ぶべき新たな人事制度を模索する動きが広がっていると西久保教授は指摘する。
「例えば、年功序列の色を残しつつも、階層が上がるに従って成果主義の要素を取り入れている企業や、年功と成果を50対50の割合で評価するハイブリッド型の評価制度を実施している企業もあります」
パフォーマンスだけを一方的に要求するのではなく、心のよりどころも社員に与えて、定着率を高めようという試みだ。
「個人単位だけでなく、チーム単位の成果を評価する取り組みも行われています。利益や獲得顧客数など、目に見える業績に合わせてチームごとに賞与を与え、メンバーに分配させる制度を導入している企業もあります。個人に対する成果主義に比べて、さほど厳しさを感じずに済みますし、チームの連帯感が生まれることで、組織としてのパフォーマンス向上にも結び付きやすくなります。チームの成果に着目するのも、『新日本型人事制度』の大きな流れの一つかもしれません」