ビッグデータの活用は、多くの未知の知見を現出させる。だが、ビッグデータは基本的に過去のデータであり、「売れているもの」のデータをもとに「よく似た商品」を作っても低価格化競争に陥る。ではどうするか? 統計データを駆使しながら消費者行動や時代を予測してきたマーケティング・アナリストの三浦展氏に、ビッグデータ活用の本質を聞いた。

「よく似た商品」を作っても
低価格化競争に陥るだけ

 2013年は、ビッグデータという言葉が広く認知された1年になりました。

 膨大なデータと統計学的を駆使して、今まで見えていなかった消費者の潜在的な要求を見つけ出すのが「ビッグデータ」への期待です。

マーケティング・アナリスト
社会デザイン研究者
三浦 展(みうら・あつし)
一橋大学社会学部を卒業後、パルコ入社。マーケティング情報誌『アクロス』編集長を務めた後、三菱総合研究所入社。1999年にカルチャースタディーズ研究所を設立。消費社会や家族、若者などの研究を踏まえ、新しい時代を予測した社会デザインを提言している。80万部のベストセラーとなった『下流社会』(光文社新書)、『第四の消費 つながりを生み出す社会』(朝日新書)など著書多数。

 しかし、これまでデータを使いつつ、感情的、定性的な情報も加味しつつ、消費と社会を予測してきた私の立場からすると、ビッグデータについてはまだ評価できない面と、大いに評価したい面があるように思います。

 評価できない面とは、現在、企業が持っているビッグデータはおそらくほとんどが購買者のデータだということです。それをどんなに分析しても、出てくる答えは「最大公約数」です。例えば、「売れる車をつくりたい」と思った自動車会社が、ビッグデータを分析しても出てくる答えは「トヨタ的なクルマ」になりがちでしょう。しかしトヨタ的なクルマではトヨタに勝てないのです。

 売れているもののデータを分析して商品を作れば、商品に差はなくなります。そうするとよく似た商品同士の低価格化競争に陥ります。ビッグデータを活用するとき、これは避けたいところです。

 一方、評価したいと思うのは、ビッグデータから「最小公倍数」を見つけられる可能性を感じることです。個人的には、むしろ、こちらのほうがビッグデータ活用の本義があるのではないかと感じています。