海外で訴訟を提起されたり当局の調査を受ける日本企業が目立つ。例えば、ハイテク企業における知財訴訟、司法当局によるカルテル調査などが代表的なものだろう。日本企業は対応を迫られているが、特に、米国においては、日本にはない「ディスカバリ」と呼ばれる証拠開示の手続きがある。すべての関連文書・データの提出が求められ、日本企業は膨大な作業およびそれに伴う費用等の対応に苦慮している。
弁護士(ニューヨーク州)
隈元則孝 氏
訴訟部門に定評があり、多数の日本企業をクライアントに持つ、シンプソン・サッチャー・アンド・バートレット法律事務所のアジア訴訟グループのメンバー(東京オフィス所属)。ニューヨーク州弁護士。早稲田大学法学部、米国コロンビア大学法律大学院(法学修士)およびニューヨーク大学法律大学院(税法修士)卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)およびみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)において日米の銀行業務に従事した後、入所。国際訴訟、仲裁および海外当局調査において日本企業を代理し支援を行う一方、M&Aおよび資本市場関連の法務アドバイスも行っている。
企業活動のグローバル化に伴い、海外における訴訟は増加傾向にある。また、最近は日本企業が海外当局から調査を受けるケースも目立つ。特に注目を集めているのは、自動車部品業界をめぐる価格カルテルの摘発。米国司法省は2013年9月、日本企業9社(外国企業の日本法人1社を含む)が米国に関わる独占禁止法上の不法行為を認めて、総額7億4000万ドル(公表日時点の円換算で約730億円)を超える罰金の支払いに同意したと公表した。
「ある意味、これまでの日本の商慣習による側面もありますが、企業が日本にとどまらずグローバル経済の枠組みの中で活動する以上は、海外の法制度や日本との違いを念頭に置いて行動する必要があります」と弁護士の隈元則孝氏は話す。
「例えばカルテル行為の影響は甚大で、米国では、司法省による刑事裁判にとどまらず、ほぼすべてのケースで民事訴訟に発展します。自動車部品を例に取れば、カルテル行為の直接の影響を受けるのは部品の購入者である自動車メーカーですが、自動車ディーラーや自動車のエンドユーザーである個人が、弁護士にたきつけられて、民事訴訟を起こしています」
急増するコストを
いかに抑制するか
海外の法制度への対応は、企業にとって大きな課題だ。とりわけ大きな問題がディスカバリである。米国におけるディスカバリの仕組みについて、隈元氏は次のように解説する。
「トライアル(正式事実審理)の準備のための証拠の事前開示手続きが、ディスカバリと呼ばれるもの。(1)当事者または第三者を証人として召喚し尋問を行う証言録取、および(2)書面による質問・回答の手続きに加え、(3)訴訟に関係する文書・データなどの開示を行う文書提出その他があり、当事者がすべての情報を開示することで、いわば手の内を見せ合い、トライアルにおける不意打ち防止・長期化などを避けることとなります。
互いの有利・不利の判断をしやすくなり、ほとんどの場合はトライアルの前に和解が成立します。ディスカバリを伴う仲裁手続きにおいても、また、当局調査においても、基本的には同じような対応が求められます」
ディスカバリの中でも、特に電子データを対象にしたものをeディスカバリと呼ぶ。隈元氏は「ディスカバリの対象範囲は、基本的に訴訟に関係するものすべて。近年は企業のディスカバリコストが急増していますが、その大半はeディスカバリの部分です」と語る。