eディスカバリのプロセスは図のような流れになる。対象文書・データを特定し、保全・収集した上で、ITを用いて一定程度絞り込む(データ処理・分析)。さらに、閲覧(レビュー)と呼ばれる内容の確認作業を経て、最終的に必要となる文書・データを作成、訴訟の相手方(もしくは仲裁手続きの相手方または当局)に提出する。

「私自身も弁護士として全工程に関わりますが、昨今はディスカバリが必要となる案件のほぼすべてにeディスカバリを専門とする事業者が関与しています。ITの発達により、電子データが多くなり、全作業を人間が行うことはもはや不可能です。

 これまでにも、重複文書を対象からはずしたり、似たような内容の文書を一塊にして確認作業のスピードを上げたりするなど、ITによるディスカバリの効率化が図られてきましたが、近時注目を集めているのはプレディクティブ(予測)・コーディングという手法です」

 これは、弁護士が行う一定量の文書・データの確認・判別作業(コーディング)をベースとして、残りの確認・判別作業をコンピュータに行わせるもの。企業にとって負担の大きいeディスカバリにおいて、こうしたITを活用することで、コスト軽減が可能となる。

事業者の選定を誤れば
訴訟や当局調査の
行方にも悪影響が

 国際訴訟や海外当局の調査の結果が企業に与える影響は大きく、ディスカバリにおいては、作業品質も大変重要である。隈元氏は「当局調査において不利益が生じたとして、弁護士とeディスカバリ事業者の責任が裁判において問われた事例もあります。特に、日本企業の場合、日本語の特殊性故に注意が必要です」と言う。

「国際訴訟や仲裁、当局調査への対応は、当事者である日本企業と当該企業を法律面で支える弁護士およびIT面で支えるeディスカバリ事業者の連携が欠かせません。日本語はあいまいであり、日本語対応がうまくできない法律事務所の場合、文書の記載内容を間違って解釈したまま、訴訟や当局調査に臨んだり、誤訳を提出してしまう危険があります。また、eディスカバリ事業者が日本語の特殊性および日本企業固有のメールシステムにうまく対応できず、ディスカバリ対応が不十分となる可能性もあります」

 隈元氏自身、eディスカバリ事業者によるデータ処理の際、文字化けが生じていたため、作業が滞った経験があるという。

「私がクライアント企業とeディスカバリ事業者を選定する際のポイントは、(1)日本語をはじめとするアジア言語へのIT対応能力、(2)クライアント企業の作業・コスト負担を軽減するための業界先端技術への取り組み、および(3)クライアント企業へのサポート体制の三つです」

 eディスカバリ事業者は米国に数百あるといわれており、大手の中には日本に進出しているところもある。「以前はITなど本場米国のeディスカバリ事業者に一日の長があったと思いますが、日本のeディスカバリ事業者も近年相当程度経験値を上げており、言語のIT対応やクライアント企業のサポート面からはむしろ安心できると考えています」。

 日本企業が国際訴訟・海外当局調査に向き合う際、法律事務所の選定はもちろんだが、ディスカバリ事業者の選定もますます重要性を高めているようだ。