顧客の満足を高めるためには、その接点において絶え間のない工夫と努力が欠かせない。ただ丁寧な応対、適切なマナーを徹底するだけでは得られない競争優位を築くために、サービスや医療といった業界で、今注目されているのが「接遇力」だ。

愛媛大学卒業後、日本航空に入社。同社退職後、専業主婦、介護、子育ての時期を経て、2004年に社会保険労務士の資格取得を足がかりに仕事に復帰する。2006年には社労士事務所(現 モアグロウ労務管理事務所)、2007年には、研修・コンサルティング会社としてグロウスリッシュ(現 モアグロウ)を設立。労働法に強い人材教育コンサルタントとして企業の人材育成、労務リスク管理に尽力している。著書に『接遇力』がある。

 企業で広がりつつある接遇力という言葉だが、マナーや接客との違いなど、正しい意味を理解している方は少ないのではないだろうか。この連載では企業における接遇力とは何か、接遇力を高める手法、接遇力の向上が企業にもたらす効果などを掘り下げる。

 モアグロウの代表取締役であり、社会保険労務士でもある浜田純子氏は、接遇力の研修を通じて、社内コミュニケーションの活性化、顧客満足の向上、ひいては売り上げアップに貢献している。浜田氏が行う接遇力研修は、受付・窓口業務を持つ金融機関、病院、旅行代理店、接客に関わる機会が多い販売店、飲食店、ホテルの他、イメージの向上を図りたいと願う医療全般といった業種から注目を集める。

 接遇力とは、その文字でイメージされる通り、顧客との接点における対処方法である。どうしてもマナーと混同される接遇力であるが、その違いははっきりしていると、浜田氏は語る。

「応対の現場においてマナーは、『形』であり、ルールにすぎません。応対を必要とする仕事であればできて当たり前のことと言えます。それに対して接遇は『心』で行うものです。マナーという形に『心』が加わらなければ、お客さまに本当に満足いただける応対にはなりません。だからこそ、接遇が重要になるのです」

 マナーを「形」とすれば、接遇は「心」だという。そしてその土台としての心がしっかりとしないと、マナーを徹底しても、顧客の心に響く応対にはならないということだ。優れたソフトウエアが、優れたOSの上に載ってこそ、力を発揮できることにも例えられよう。

「あいさつや名刺交換、言葉遣いなどは、マナーを理解し実践しさえすれば、誰でも表面上は丁寧な応対が身に付きます。しかし、丁寧なだけの応対では、相手の心に喜びを与えるほどの力はありません。例えば、商品を購入した際、どんなに丁寧な言葉でお礼を伝えられても、一度も目線を合わせなければどうでしょうか。言葉が丁寧な分、かえってお客さまは『言葉だけか』と気分を害してしまうでしょう。また、小さなものを購入した際に、サイズに合わない大きい紙袋に入れて渡されるよりも、持ち物を確認し、ひと言声をかけてもらうほうがありがたいですよね。向き合った際に相手の気持ちのひだに気づき、こちらの心遣いを、丁寧な応対で届けることが接遇です」