JFEシビルが開発した、耐震安全性を実現する鋼管ブレースは、教育施設や集合住宅など多様な建物の耐震改修技術として、またデザイン性に優れた「魅せる建築」の耐震要素として多くの建築物に使われている。
システム建築事業部
副事業部長
森田時雄
1995年1月17日、JFEシビルの耐震・制振デバイスである「KTブレース」の開発に携わった森田時雄・システム建築事業部副事業部長は、阪神・淡路大震災を神戸で経験した。
「多くの建物が倒壊した神戸の被災風景は、建築構造に携わる者にとってとても衝撃的でした。その経験から、われわれの技術を安心・安全な街づくりに広く活用させなければという思いに駆られたのです」
ブレース(筋交い)部材に
円形鋼管を採用
95年12月に施行された「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」は、全国で耐震補強に対する意識を高めた。だが、一般的に耐震補強に用いられる鉄骨枠付きのH型鋼ブレースは、鉄骨や接合部の面積が広く、改修を施すと美観や採光が損なわれるというデメリットもある。耐震補強はしたいが、なかなか実施に至らない理由の一つがここにある。
そうした状況の中、JFEシビルでは、鉄鋼関連分野で培ってきた技術を生かして、デザイン性に優れ、かつ施工性に優れた鋼管ブレース「KTブレース」「二重鋼管ブレース」を開発、実用化した。
鋼管ブレースは、従来のH型鋼ブレースと同等以上の構造耐力を持ちながら、すっきりとした外見が特徴だ。中でも同社の鋼管ブレースは外枠との接合を溶接ではなく、鋼管の端にクレビスと呼ばれる接合部品を装着し、コンパクトで強度のあるピン接合としている。クレビスと鋼管端部の口金を右ねじと左ねじにすることで、ターンバック機構を形成。現場でブレースの軸を回転させるだけで長さを調節できることから、施工性が大きく向上している。ちなみにこの量産可能なクレビスは、高強度ピン接合部品として、国内初の国土交通大臣認定を取得している。
二重管方式のブレース
制振機能に期待
並行して、さらなる耐震性向上のため、二重管方式による座屈補剛ブレースを開発した。鋼管を二重にして圧縮強度を高めたもので、長いブレースでも細い部材となる利点がある。また、内側の鋼管(軸力管)に、変形しやすい低降伏点鋼管を採用することで、ブレース全体でエネルギーを吸収し、地震の揺れを軽減する役割を果たす仕組みになっている。特に高層建築物などでは、倒壊よりもむしろ揺れによる内部の被害が大きいことが危惧されるようになってきている今、二重鋼管座屈補剛ブレースには、その揺れを吸収する制振性能が期待できるのだ。
さらに第3段階として、工事における建物使用制限を削減するため、建物の外側に補強構面を配置する外付け補強工法を開発。病院、集合住宅、事務所ビルなど、住人の移動が難しいケースでも、“居ながら施工”の耐震改修ができるようになった。