日本は言わずと知れた世界有数の地震大国。「30年以内の発生確率は99%」と警告されてきた宮城県沖地震は東日本大震災として、想定をはるかに超える規模で現実となった。今後も直下型や海溝型の大地震発生が高確率で懸念されており、それらの被害額は史上空前規模に達するとみられる。地震の発生自体を回避することは不可能だが、被害を最小限に抑えることは可能だ。そのための建物の耐震化について、東北大学大学院の前田匡樹教授に話を聞いた。

東北大学大学院
工学研究科
都市・建築学専攻
前田匡樹教授
(工学博士)

 東日本大震災から3年が経とうとしている。多くの人々にとってあの日の記憶はいまだ新しいことだろう。2013年12月には首都直下地震により約61万棟が倒壊・焼失し、2万3000人が死亡するという新たな被害想定が発表された。そして今後30年以内に首都直下地震が7割程度、南海トラフ地震が6~8割程度の確率で発生するといわれる。どちらも甚大な被害が想定されており、それを極力軽度に抑えるための対策が急務となっている。

被害を最低限に抑える
耐震補強

 東北の太平洋沿岸部が被った災禍があまりにも衝撃的だっただけに、地震被害に対するちまたの関心はとかく津波に向けられがちだが、今、全国で推進しなければならないのが建物の耐震化である。13年11月には耐震改修促進法を改正し、国も躍起になって建物の安全性向上を図ろうとしている。だが、東北大学大学院の前田匡樹教授は耐震補強工事に関する厳しい現実について語る。

「建物の耐震化が推進されるようになったのは、十勝沖地震(1968年)や宮城県沖地震(78年)などを教訓に71年と81年に建築基準法の大改正が実施されたのが契機でした。そして、阪神・淡路大震災(95年)以降は耐震補強工事が活発化し、官公庁や学校などの教育施設、病院、その他の公共施設などで耐震化がかなり進んでいます。その一方で、民間の建物はさほど進んでいないのが実情です」

 その上、一般的には大きく誤解されがちだが、耐震補強工事を済ませればそれで万全ということでもない。

「耐震補強に関して定めた基準は、あくまで建物の倒壊を防ぐことを目的としたもの。その基準を満たしていれば、地震に見舞われても建物が無傷で済むというレベルのものではありません。建物の骨組みが壊れなくてその中にいた人が無事なら、結局は建て替えざるを得なくなったり、かなりの改修費を要する被害を受けたりしても、それでよしという発想に基づいて定められている基準です」

 つまり、国が定めた耐震補強基準とは、人命を守るための最低限のルールなのだ。言い換えれば、耐震化が施されていない建物の中で大地震に遭遇すれば、命が危険にさらされかねない。

「現在、建て替え工事が進められている東北大学の校舎の一つは、震災前に耐震補強済みでしたが、それでも柱の根元の部分に想定外の崩壊が生じました。耐震補強を行っていなければ、もっと大きな被害を受けていたことでしょう」