耐震化技術の進歩と
未整備な社会通念
建物によって、具体的な耐震補強の手法は異なってくる。いずれにも共通しているのは、たとえ壁や天井が崩れても柱はしっかりと立ち続けるための措置を講じることだという。
「鉄筋にしてもコンクリートにしても、20年前と比べればはるかに強度が高い製品が出回っており、すでに耐震化に関する技術はかなりの高水準に達していると言えます。しかしながら、その技術に対して率先的にお金を払おうとする人がどれだけ増えるかが課題でしょう。耐震改修促進法の改正で税制面の優遇や耐震性表示制度などといったインセンティブが設けられましたが、はたしてどれだけの効果が期待できるでしょうか。耐震化の有無が不動産取引の価格に反映されたり、補強工事の負担分だけ地震保険が安くなったりするような社会的な仕組みが必要かもしれません」
建物に適した
耐震補強の必要性
また、おのおのの建物に適した耐震補強を行わなければ、相応の効果を期待できないという。
「大別すると耐震化には、(1)揺れても壊れない頑強な構造にする、(2)揺れを受け流す柔軟な構造にする、(3)建物の下に免震装置を設置して地震の力を加わりにくくする──といった三つのアプローチがあります。いずれを選ぶべきなのかは、建物の特性によって違ってきます。例えば、壁が多くて柔軟性が低いマンションに(2)は不向きでしょう。むしろ、壁の崩壊を助長しかねません」
耐震化の分野に精通したプロ中のプロに託さなければ、“真の備え”とはならない可能性もあるわけだ。下手をすれば、費やしたお金と時間が水泡に帰すばかりか、深刻な被害に見舞われかねない。要するに「建物の構造に応じて、首尾一貫したアプローチの耐震化を施すのが鉄則」(前田教授)なのだ。
耐震化は社会全体で真剣に取り組むべき最優先課題であると同時に、生半可な対応では十分な効果を期待できない難しいテーマでもある。