ICT産業において、知財の流通は活発化している。阿部氏によると、マイクロソフトの基本的な姿勢は「特許ライセンスや売買を通じてWin-Winを実現する」というもの。その一例として阿部氏が紹介したのは、AOLとFacebookを交えた3社間での特許取引である。そのスキームは以下のようなものだったという。

日本マイクロソフト
知的財産部長
米国弁護士(カリフォルニア州)・弁理士
阿部豊隆氏

 まず、AOLの過半数の米国特許をマイクロソフトが購入するとともに、AOLが所有し続ける特許も使用できるという契約を結んだ。その後、AOLから取得した特許の半分以上をFacebookに売却したが、その際「売却した特許をマイクロソフトは引き続き使用できる」という条件が付けられた。この取引を通じて、3社がそれぞれメリットを享受している。

「特許だけでなく、意匠や著作権、商標、不競法など幅広い知財権を駆使して自社の商品やサービスを守るという手法が主流になりつつあります。その観点で日本の法律には一つ懸念があります。ソフトウエア製品においてはユーザーインターフェースの重要性がますます高まっていますが、現行の意匠法上、画面上のデザインの保護が決して十分とは言えない状況です。制度改正が現在検討されていますが、いち早い実現が必要と感じています」

 国ごとに異なる法制度や規制にどう対応するか――。グローバルで活動する企業にとって、それは知財分野だけの課題ではない。

変化の激しい時代の
オープン&クローズ戦略

 三人目の登壇者はトムソン技術研究所アジア地区特許担当副社長で、K.I.T.の客員教授でもある木越力氏。トムソン技術研究所はフランス・パリに本社があるエレクトロニクス企業・テクニカラーのグループ会社である。

「テクニカラーには、画像の圧縮・処理、ネットワーク、入出力・ユーザーインターフェースなど大きく六つの重点技術分野があり、トムソン技術研究所は日本における知財関連業務を担っています」と木越氏。トムソンは特許登録件数で欧州トップ3の常連。日本でも海外企業としては十指に入る。

 豊富な知的財産を有する同社は、ライセンス提供や標準化にも積極的に取り組んでいる。例えば、画像圧縮の標準規格であるMPEG-2は広く世界中で利用されているが、そのパテントプールにおいて同社は重要な位置を占めている。また、音響データの圧縮で使われているMP3の標準化やライセンスでも大きな役割を果たしている。