訴訟を続けるかどうかの判断はどうつけるのか

――このようなやりとりは、いつごろまで続けるべきなのでしょうか。費用対効果を考えると、代金回収にかかる負担がかなり大きくなることも予想されます。

田沢 そうですね。債権者としては、債務者に対する取引上の立場と費用対効果を考えるべきでしょう。債務者が債権者よりも優位な立場にあり、債務者との取引を簡単には打ち切ることができない場合、あまり強硬な手段を取ることはできないため、ソフトな手段を重ねることから始めるしかありません。しかし、債務者が債権者よりも優位な立場になく、取引継続の理由がない場合は速やかにハードな手段を取ることも考えられます。

 確実な証拠書類がそろっている場合、勝訴判決を得られる見込みが高いものとして訴訟提起し、訴訟上の和解をするかあるいは判決を受けて、いざというときは強制執行もできる状態にしておくと安心です。確実な証拠がそろわない場合は、売掛金の存在を争われ、敗訴の危険を伴うため、証拠書類の有無もハードな手段を取るかどうかを決断する材料となります。弁護士に相談する場合は必ず証拠書類を持参し証拠としての価値を検証しましょう。

未回収金を適切に損金計上する

――債務者が法的倒産処理手続に入ることで、売掛金の全部、または一部が切り捨てられた場合、貸倒損失として損金計上できるとは思いますが、そのような手続に入っていなくても、損金処理をすることは考えられますか。

田沢 債務者が債務超過であることを確かめるためには、決算書類の提供を受けることが必要ですが、債務超過が何年も続き債務超過に陥った事情や、事業好転の見通しを勘案し、回収不能と考えられる場合は債務免除通知、ないしは債権放棄書を作成・送付し、損金処理することが可能です。債務免除通知、ないし債権放棄書を証拠として残すために、内容証明郵便で送付しておきましょう。

 その他にも、資産状況や支払い能力などから、売掛金の全額が回収できないことが明らかとなった場合、また、取引を停止した時(最後の弁済期、または、最後の弁済の時が停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後、1年以上が経過した場合、または、債務者と同一地域にある売掛先に対する売掛金合計額が、取立てのための費用よりも少ない場合や、支払いを督促したにもかかわらず支払いがない場合は、備忘価額(1円)を控除した残額を貸倒損失として損金経理が可能となります。

 貸し倒れ処理のタイミングは、貸し倒れ処理をするための要件を充足する限り、速やかな処理をお勧めします。なぜなら不良債権を抱えることは、それ自体が自社に対する信用に影響を与えてしまうからです。

その他プロの視点1

株式会社アセット・アドバンテージ 山中 伸枝 氏
 企業の中には、受注や売り上げにばかりに目が行き、資金の回収までしっかりと見届ける余力のない会社も多く見受けられます。しかし、会社を継続、成長させるためには、円滑な資金繰りが最も大切であり、資金回収についての重要性については、田沢先生が指摘する通り、もしものときの対抗策も含め、対策を講じる必要があるでしょう。また、いくら営業に力を入れても、経理・財務までは手が回らず、社内ではせいぜいブックキーピングのみを行い、決算処理を外部委託する企業も多いようです。会計は経営の基礎体力ですから、企業としては、外部委託する場合であっても、経営アドバイスをきちんと行ってくれる専門家なのかどうかを見極める必要があるでしょう。

その他プロの視点2

中小企業経営労務研究所 社会保険労務士 岡本 孝則 氏
 会社側から、社員に向けた債権回収について相談を受ける場合も少なくありません。例えば、社員が会社の仕事の一環として車の運転に関する作業をしている最中に、重大な過失により交通事故が起こることがあります。事故に巻き込まれた相手側からは社員と会社に対して、物損や人身など、交通事故に関するさまざまな補償が請求されてきます。そうした状況を考慮すると、社員が会社に対して高額の損害を与えた場合の対処方法が必要となります。社員が、相手側からの多額の請求を補償できる能力を持たないため、毎月の給料から分割払いができるよう、労働基準法に基づく、社内規定を整えることが重要です。さらに、会社側と社員間において損害賠償などの債権回収の定めも、就業規則などに盛り込んでおくなどの取り組みが求められています。

 次回は、リスクを未然に極小化できる得意先との付き合い方、売掛金の扱い方について、引き続き田沢氏に話を聞きます。