代金回収に時効はあるのか

――代金回収に、時効はあるのでしょうか。また、時効を中断させることはできるのでしょうか。

田沢 商事債権は、一般的に5年で消滅時効にかかりますが(商法522条)、商品の製造・販売にかかる売掛金債権は2年と定められているので注意が必要です(民法173条1号)。支払い期限から2年が経過すると、時効消滅してしまうことを念頭に置き、時効にかからないように管理していく必要があります。

 時効の中断事由には、債務承認があります。時効期間が経過する前の段階で「平成25年5月分の未払残高が金100万円であることに相違ありません」といった残高確認書に記名・押印させることにより時効が中断し、そこからあらためて2年間の時効期間が進行します。ただし、請求の場合、訴訟手続などの法的措置によるものと裁判外の請求(催促)があり、裁判外の請求の場合は6カ月以内に訴訟手続などの法的措置を執らないと時効中断の効力は生じません。

 時効中断のため、時効期間の2年が経過する間際に内容証明郵便で請求しても、そこから6カ月以内に訴訟手続などの法的措置を執らないうちに、支払期限から2年が経過してしまった場合は、その売掛債権は取引先から時効消滅をしたと主張される可能性が高いので注意が必要です。

――裁判を起こした場合、時効に変化はあるのでしょうか。

田沢 裁判で支払いを命ずる判決が出てそれが確定した場合、時効期間はそのときから10年となります(民法174条の2)。売掛金が時効消滅してしまわないように、通常の売掛台帳のみならず、別途未収売掛金一覧表を作成し普段からチェックすることも必要でしょう。売掛金を確実に回収する極意は、取引先の情報を意識的に集め、日々の書類管理や入金確認を徹底することに他なりません。常に回収を意識しながら営業活動に努めることが重要だと思います。

その他プロの視点1

株式会社アセット・アドバンテージ 山中 伸枝 氏
 欧米では、命と財産を守るための専門家を持ちなさいと言われるそうです。命を守るのは病気を治してくださる専門家で、お医者さまです。財産を守ることは、権利とお金を守ることで、権利を守るための専門家として弁護士、また、お金を守る専門家としてファイナンシャル・プランナーが必要だとしています。現在は、取引方法がさらに高度、かつ複雑化しており、同時に取引先との関係も多様になり、受注から資金回収までの流れの中で、思いがけない落とし穴が存在します。リスクをコントロールするためにも、田沢先生のような専門家のアドバイスは不可欠でしょう。1円単位まできっちり回収する仕組みと不正を許さない体制を、法律をしっかり押さえた上で構築する必要が今後ますます高まると考えます。

その他プロの視点2

中小企業経営労務研究所 社会保険労務士 岡本 孝則 氏
 売掛金回収に関しては、取引先企業との常日頃からの関係を円滑にしておくことが求められています。取引先企業の運営状況が良好かどうか、企業内の雰囲気の変化や外部からの情報などを基に、経営状態を察する努力が必要です。また、従業員に賃金が適正に支払われているかについても、経営状況を知るために重要なファクターとなります。労働基準法24条の「賃金全額払い」の原則によれば、従業員代表者との控除協定がなければ、従業員の賃金債権は一方的に控除できません。ただし、従業員が自由な意思で同意している場合は、賃金債権と相殺することは労基法に違反するものではないのです。ただし、民法510条、および、民事執行法152条の規定により、賃金支払期の賃金、または、退職金の4分の3以上(月給44万円を超える場合は除く)に相当する部分については、相殺できないとされています。