企業のサイトや個人のブログ、あるいはネット上の掲示板などに批判的な書き込みが殺到する“炎上”と呼ばれる現象が、ここ最近相次いでいる。当の企業や個人に原因がある場合も多いが、一方であやふやなうわさがソーシャルメディアを通じて拡散し、炎上につながるケースも少なくない。ネット上の風評被害や誹謗中傷から企業を守るにはどうすべきか。ネット事情に詳しい弁護士の牧野二郎氏に聞いた。

牧野総合法律事務所
弁護士
牧野二郎
1953年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。83年より弁護士として活動。96年に「インターネットローヤー法律相談室」開設以来、セキュリティ対策や電子商取引など、インターネットに関連した法律問題、紛争などを数多く手掛ける。『内部統制時代の文書・情報マネジメント』(NTT出版、共著)、『Google問題の核心』(岩波書店)など著書多数。

 ネットでの炎上は「人ごと」と考える経営者はいないだろうか。スマートフォンとソーシャルメディア(SNS)を使って、誰でも手軽に意見や写真を投稿できる現在、批判的な意見がネット上で一気に広がり、炎上するリスクはどの企業にもある。従業員が店内で悪ふざけした写真をSNSに投稿したことで炎上した一連の「バイトテロ」などはその好例だ。

 企業が何らかの理由で炎上し、ネット上で風評被害や誹謗中傷の対象になった場合、名誉回復のために法的手段を検討する方法もある。だが、「被害者が個人の場合と異なり、社会的存在である企業はある程度の批判が許容されるため、損害賠償請求を行うのは難しいのが実情です」と牧野二郎氏は指摘する。

 加えて、賠償請求のためにはその実害を厳密に算定する必要があるが、風評被害や誹謗中傷によるダメージは具体的な数字になりにくい。牧野氏は法律家として、「炎上の本質は何か、今後、実証研究する必要があるでしょう」と付言する。

Webの調査・分析で
顧客の生の声を把握

 企業が炎上の被害を受けた場合、法的にはどう対処すればいいのだろうか。まず、炎上の原因は何か、問題点を明らかにした上で、事実無根であれば投稿者やサイトの運営者に発言内容の削除を求める。投稿者が不明な場合、ネット事業者に情報開示を請求する。同時に裁判所へ仮処分申請をすることになるが、その決定がなされるまでに多くの時間を要するという。

 そんな事態を招かないためにも、企業は常日ごろからWebリスクに備えておく必要がある。牧野氏は「まず、Webは企業の敵ではなく、顧客の生の声を収集できる重要なコミュニケーションツールという認識が重要」と述べる。そして、「SNSなどに苦情を書き込まれ、問題が大きくなる前に、顧客の不満を的確に把握する必要があります。そのため、Web調査・分析サービスなどを活用し、日常的にネット上の動向を見ておくべきです」と話す。

 こうした活動はWebリスク管理のみならず、SNS上で自社の製品・サービスなどが消費者からどんな評価を受けているのか、顧客満足度を測ることにもつながる。