気持ちの入る銘柄が
長期投資の対象になる

──では応援したい企業をどのように探せばいいのでしょう?

澤上●経済活動は我々生活者の消費活動と、製品やサービスを提供する企業活動によって成り立っている。それは紙の裏表のようなもので、企業が利益を挙げることは、雇用や給料が増えることにつながり、それは消費を促進して企業の利益に還元される。そうした視点に立てば応援したい企業が見えてくる。それが雇用を減らしてでも目先の利益を挙げようとする企業、製品の質を落としてでも利益を挙げようとする企業でないことは明らかだ。

 ただ、企業のどの点を見て応援したいと思うのかはそれぞれの長期投資家が考えればいい。

──応援したい企業は自分が詳しい業界で探すと見つかりやすいものですか?

澤上●その質問は悪い意味で重要だ。詳しい業界という視点で探すと、どうしても目先もうかっていて株価が上がりそうな銘柄に目が行ってしまう。それでは自分にそのつもりがなくても銭ゲバ投資の世界に入ってしまう。そうではなくて「気持ちが入る銘柄」を探すことが大切だ。

──日本は人口減少に見舞われ、経済成長も鈍化しています。それなのに日本企業に投資して大丈夫ですか?

澤上●日本の経済成長力に着目するのではなく、「企業」の成長力を見るべき。人口が減少傾向にあるとはいえ日本には2050年時点でも1億人前後の大消費市場が存在する。世界に目を向ければ現在の71億人の人口は96億人に膨張する。この巨大市場をビジネスチャンスとして生かせる企業を応援すればよい。調べれば調べるほど、面白いことをやっている日本企業はたくさんある。こうした企業を、816兆円の個人預貯金を使って応援すればよい。

──澤上さんの言う長期投資家になるためにはどのような勉強をすればいいのでしょう。例えば決算書を分析することはビジネスパーソンの得意分野です。

澤上●決算書を分析したくなる気持ちは分かるが、そこにある数字はわれわれ生活者が企業の製品を購入したりサービスを利用することでつくり上げたもので、半年前、1年前の古い情報。それを基にした業績判断や株価の適正価格といった情報は、長期投資の邪魔になる。どうしても決算書を重視したいのなら、10年先の推定決算書を作れるくらい、対象企業の経営や研究開発の方向を勉強してほしい。ただ、現実にはプロである機関投資家でさえできないことだ。

 繰り返すが投資の極意は「安く買って高く売る」だけなのだから、頭に情報を積み込むための勉強は不要。長期投資家の買い場である株価の暴落時はファンダメンタルズの最悪期でもあるので、勉強して得た知識で測ると怖くて買えなくなる。逆に株価が上昇しているときはファンダメンタルズが好転しているので割安に見えてしまう。その結果絶好の買い場を逃し、高値で買って損をすることになる。