新商品の開発よりも難しい
「リニューアル」を成功させるための苦悩
「あまり変わっていないように見えますか。でも、淡麗グリーンラベルはマイナーチェンジで済ませているわけではないんです」と増田さんは話す。
マーケティング部・商品担当
増田秀史氏
淡麗グリーンラベル以外のブランドも含め、リニューアルのプロジェクトを4度担当。ワインバイザーでもある。
「だいたい3年に一度リニューアルしてきていますが、3年と決めてやっているわけではない。私たちは日々、『お客様はどこに不満を持っているのか?』について調査しています。結果的に3年くらいで、今のお客様の嗜好と現状の淡麗グリーンラベルが"ズレてきたのではないか"ということが売り上げやお客様の反応に表れてくる。それを修正するために、リニューアルを行うんです」
例えば、消費者が味に軽やかさを求める流れがあり、それに基づいた商品になっていたとする。あるとき香りが高い商品がヒットすると、一部の消費者の嗜好がその方向へ向かい、全体の消費者の嗜好も少しずつ変化していく。そこで「ズレ」が生じるというのだ。
だが、それを修正すべき方向性、つまり、リニューアルの方向性を見つけることが何よりも大変な作業になる。
リニューアルに掛ける時間は半年から1年。嗜好の変化にマッチすると思われるサンプルを50~100パターンもつくり、醸造するビール職人からブランド担当、営業担当や宣伝担当など大勢の社員による試飲を重ねて「これはいける」という2~3種類に絞り込む。その後、実際に消費者を招いたグループインタビュー、大掛かりな定量調査など、いくつものリサーチを経て、ようやく「新しい味と香り」「新しい顔となるパッケージ」の答えが出るという。
多くの関係者、多くの工程が入り交じる複雑な作業だが、最初から最後まで貫かれているのは「お客様はどう感じるか」という点だ。
とはいえ、ロングセラー商品の味と香り、パッケージを変えるには相当な勇気がいる。変化がプラスになればいいが、変わったことによってこれまでのファンが離れてしまう恐れもある。まっさらな新商品を開発するよりも、むしろ、味や香り、イメージなどが認知され尽くした商品をリニューアルするほうが難しい。
増田さんは淡麗グリーンラベルのリニューアルを担当することになった際に「大胆に変えたい」と意気込んでいたという。外から見ていたときに「味はこんな風に変えたらいいのに」「パッケージもこうしたらいいのに」と考えていたものがあったからだ。だが、担当者になってみて、「お客様の声に耳を傾けると、自分の仮説は見事に打ち砕かれた」。
「ロングセラーの商品なので、いい意味で期待を裏切るのはいいが、悪い意味で裏切るのは許されない。ブランドはあくまでもお客様のもの。変えたことで、お客様に『らしくない』と思われることだけは絶対に避けなければなりません」(増田さん)
リサーチと修正を徹底的に繰り返し、「これなら『淡麗グリーンラベル』の評価を損なわず、むしろ愛され続ける商品になる」と確信できないと、どれだけ作業が発生していたとしても「リニューアルは見送り」となることまであるという。前出の淡麗グリーンラベルのリニューアルの歴史は、そうした積み重ねが全て表現されたものなのだ。